研究実績の概要 |
2017年度に実施した調査船「かいれい」航海にて得られたミニランダー3潜航分(一回目8,200m、2回目7,498m、3回目8,178m)の映像を精査した。得られた映像から、各生物が初出した時間(First Arrival Time: Tarr)の記録、ランダーフレームに貼り付けた10cm間隔のテープ付近を遊泳した生物の遊泳速度を記録した。また、過去に計測されたマリアナ海溝の平均流速を0.7cm/s(Taira et al., 2004)と仮定し、Priede and Merrett (1996)の手法を用いて出現した各種生物の個体数密度を推定した。魚類ではシンカイクサウオが2回目および3回目の潜航に出現し、その遊泳速度の平均は、3.1cm/s(N=4)となった。一回目のFirst Arrival Timeが13163秒、2回目は63413秒であったことから、個体数密度は7,498mサイトでは68個体/km2、8,178mサイトでは3個体/km2となった。魚類だけでなくサイト間で出現した生物の多様性をみると、8,200mおよび8,178mではそれぞれ5種(4種重複)であったが、7,498mでは7種となった。優占的に出現するヨコエビ類2種の個体数密度を前述同様に解析すると、7,498mサイトでもっとも個体数密度が高くなる傾向になった。同じく優占種であるアミ類についてみると、8,200mサイトでもっとも高くなったが、8,178mサイトではかなり低い値を示した。アミ類のような例外はあるものの8,000mを越えるサイトでは多様性も生物量も低くなる傾向がみられた。
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今後の研究の推進方策 |
本研究で用いる探査機については、引き続きミニランダーを利用する。また、現状では、江戸っ子1号の不具合も解消されたため、フルデプスの改良はできなかったが、8,000m以浅の調査では利用可能となった。2019年度は民間の調査船や漁船等も視野に入れた検討を行い、伊豆・小笠原海溝での調査を目指す。使用船舶の確保ができた場合には、江戸っ子1号でサンプル採集を目指し、魚類の出現情報のある7,000-8,000m以浅での観測を実施、ミニランダーについては、8,200m以深を目標に投入し、圧力センサーの計測による魚類の生息限界に関する情報を取得する。また、試料を得ることができた場合には、TMAOなど浸透圧調整物質の分析も行い、魚類の生理・適応機能について明らかにする。
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