研究課題/領域番号 |
16K14806
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研究機関 | 総合研究大学院大学 |
研究代表者 |
沓掛 展之 総合研究大学院大学, 先導科学研究科, 講師 (20435647)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | タンチョウ / コミュニケーション / ダンス / 行動生態 / 内分泌 |
研究実績の概要 |
二個体が同時に信号を発信・受信する双方向コミュニケーションは、個体ごとの分析結果を足し合わせてもその特徴を再現することができない複雑な現象(1+1=2 ではない)である。たとえば、タンチョウ(鳥類ツル科)にみられる求愛ダンスは、個体内・個体間の行動遷移ルール、ペアー雌雄間の行動同調性によって、行動要素の配列・持続時間が決定される。これまでの研究では、複雑な双方向コミュニケーションを形成する行動ルールの把握、およびその機能について、未解明な点が多かった。 本研究では、計算機的統計手法・行動内分泌学の実験手法を駆使して、タンチョウの求愛ダンスの構造・機能・至近要因を解明する。機能に関しては、求愛ダンスによって性ホルモンレベルを雌雄間で生理的同調させるという仮説(内分泌同調仮説)を自然観察と内分泌測定実験により検証する。これらの知見を統合し、行動生態学において未開拓なテーマである双方向コミュニケーションの理解を目指す。 本研究は、以下のふたつの研究からなる。 (研究1)野外調査に基づく求愛ダンスの行動遷移パターンの理解:新しい計算機的統計手法によって行動要素間の遷移行列を推定し、その行列特性として算出される求愛ダンスの特徴、決定要因および繁殖成功への影響を検証する。また、行動要素が求愛ダンス以外の状況でどのように用いられているかを明らかにし、同一のシグナルが持つ意味の柔軟性・機能を行動観察、行動実験によって明らかにする。
(研究2)内分泌状態の非侵襲的測定による求愛ダンス・内分泌同調仮説の検証:求愛ダンスの至近要因として、雌雄間での性ホルモンの生理的同調性を調べ、求愛ダンスの構造・繁殖成功との関係を調べる。調査対象は野生個体と飼育個体とする。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
(研究1)野外調査に基づく求愛ダンスの行動遷移パターンの理解:釧路地域における野生個体の観察を行い、ペアによる求愛ダンスの構成要素である「鳴き合い」(duet)を、行動観察と音声録音によって記録した。また、これまでと引き続き、個体識別されているつがいによる求愛ダンスの画像データ、給餌場全体の様子を長時間撮影することでつがい間の距離など親密さを示す社会的なデータも収集できた。ダンスの構造に関しては、エントロピーを用いた解析を新たに行い、順序の決定権に関わる性差があることを見出した。また、離散集合の状況における鳴き合いの機能に関する論文を投稿し、査読コメントを受けて、現在、改稿中である。タンチョウの求愛ダンスに関する講演を動物心理学会と釧路市立博物館に招待されて行い、鳥学会と動物行動学会にて研究成果の発表を行った(研究員・武田氏による発表)。一般誌からの執筆依頼を受けて、タンチョウのダンスを紹介する記事を発表した。ダンスの構造と機能に関する総説論文(英語)を現在、投稿中である。 これらのほか、個体識別のために標識調査を行った。
(研究2)内分泌状態の非侵襲的測定による求愛ダンス・内分泌同調仮説の検証:釧路市立丹頂鶴自然公園において、ホルモン抽出のための糞を採取し、コルチコステロンのEIA測定を予備的に行った。その結果、コルチコステロンの測定が可能であることが分かった。同時に実験の問題点を整理した。
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今後の研究の推進方策 |
今年度も釧路における観察を進め、タンチョウの生活史・コミュニケーションに関する野外調査、分析、成果発表を進める。初年度と同様に研究を進めていくことで、研究の推進に問題ないと考えている。 (研究1)計算機的手法に関しては、新たに開発中の統計モデリングや、情報理論の手法を積極的に導入し、雌雄間での行動遷移・同調性の分析を進める。つがいの親密さの指標として、新たにつがい内の距離や普段の行動的な同調性なども用いて、求愛ダンスとの関係性を調べる。さらに、求愛ダンスと求愛ダンス以外の状況で横断して使われる行動要素に関して、それぞれの特徴を比較することにより、その機能を調べる。また、人を対象にした双方向コミュニケーションにおける手法・理論が、タンチョウにも用いることが可能かもしれない。このため、手話をはじめとして、ヒトを含めた多種における相互コミュニケーションの知見を幅広く見渡し、結果・方法論を比較する。 (研究2)初年度の実験において生じた問題点を克服するための実験プロトコルを確立させる。また、サンプル収集を効率的に行う手法を模索する。
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次年度使用額が生じた理由 |
内分泌計測の実験・準備に当初予定していたよりも時間がかかったために、次年度に研究費を使用することで対処することにした。また、論文投稿が、準備・査読の都合から当初予定していたスケジュールよりも遅れたために、次年度に英文校閲用の研究費を準備することとした。
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次年度使用額の使用計画 |
内分泌計測に関して、飼育個体を対象に引き続き手法の改良を行う。また、成果発表のための論文を次年度、3編、投稿する予定であり、原稿が完成し次第、英文校閲費を支出する。
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