今年度、釧路地域での野外調査を継続した。餌付け量の減少に伴う離合集散パターンの変化、給餌場での個体間相互交渉とコミュニケーションに関するデータを記録した。 コミュニケーションの研究に関しては、タンチョウのつがいのダンスの機能分析と成果発表に注力した。まず、ダンスという双方向コミュニケーションを分析する統計的枠組みを整理した。この枠組みを14の行動要素からなるタンチョウのダンス時系列データに当てはめた。情報理論に基づく複雑性・同調性の指標を算出し、つがいのこれまでの繁殖成功のデータとの関連を調べた。その結果、これまでに繁殖に成功していないつがいほど、複雑なダンスを踊ることが判明した。この知見は、従来想定されていた、つがいのダンスが繁殖成功と正の関係にあるというpair bond仮説と正反対の結果である。この結果をBehavioral Ecologyに発表した。この成果をプレスリリースし、新聞に掲載されるなどして周知することができた。また、この論文はAltmetric指標で全体の上位5%以内という高い注目を受けた。 これらの他に、タンチョウのつがいが行うコミュニケーションの研究を行なった。また、タンチョウ研究の経緯と成果を、一般書に寄稿した。これらの成果は、ツルの行動に関する貴重なデータであり、基礎生態から保全の各領域において、世界的に見ても重要な成果である。 これらの成果の一方、内分泌測定に関しては、サンプルを収集することが困難であり、予備的データを得るに留まった。ダンスの機能に関する成果を踏まえて、今後、至近要因に関する理解を進めていくことが重要である。
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