研究課題/領域番号 |
16K14814
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研究機関 | 基礎生物学研究所 |
研究代表者 |
相原 悠介 基礎生物学研究所, 環境光生物学研究部門, NIBBリサーチフェロー (40636891)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | サンゴ / 褐虫藻 / GFP / 走光性 / 共生 |
研究実績の概要 |
【背景】サンゴ礁の海域では、緑や黄、赤など、鮮やかな体色のサンゴを見ることができる。この体色は、サンゴが緑色蛍光タンパク質(GFP)とその類縁の蛍光タンパク質を大量に産生していることに由来する。 【問題】しかしながら、蛍光タンパク質はサンゴにとってどのような役割を持つのかについては、いまだに明らかでない。唯一、「サンゴ体内に共生する褐虫藻の光防御に寄与する」とする説が提唱されているが、強光が届かないほどの深場(50m)に棲むサンゴであっても強い蛍光を発するという事実を説明できない。 【目的】本研究では「サンゴの蛍光タンパク質は褐虫藻を誘引する働きがあるのではないか」と仮説を立て、これを検証する。さらには、実際のサンゴ礁海域において、サンゴの蛍光による褐虫藻誘引の実態を捉える。 【結果】まず、褐虫藻がどのような色の光に応答して遊泳するのかの検討を行った。その結果、褐虫藻の正と負の走光性は、それぞれ緑色光と青色光に対して最大となることがわかった。さらに、褐虫藻が青色光環境下で緑色蛍光源に誘引される現象を確認した。さらに、沖縄県沖縄本島付近のサンゴ礁にてサンプリングを行った結果、蛍光塗料を塗布したトラップに自然海水中の褐虫藻が誘引される傾向を見出した。以上により、青色光が優占的なサンゴ礁光環境において、褐虫藻がサンゴの蛍光タンパク質に誘引されうることが示唆された。 【意義】サンゴ礁海域における褐虫藻の生息密度は非常に低い。そのため、蛍光タンパク質によって褐虫藻が誘引されるとすれば、それはサンゴが褐虫藻と共生するために極めて重要なメカニズムと考えられる。このメカニズムはサンゴの生存戦略を理解する基盤となる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
大型スペクトログラフを用いた詳細な解析により、褐虫藻の正と負の走光性が、それぞれ緑色光(500 - 540 nm)と青色光(380 - 480 nm)に対して最大となることがわかった。これは褐虫藻の走光性の作用スペクトルを初めて明らかにしたものである。さらに、この作用スペクトルデータからの予測をもとに褐虫藻が蛍光に誘引される条件を詳細に検討した結果、青色光環境下で緑色蛍光源に誘引される現象を確認し、その程度を定量化することに成功した。実際のサンゴ礁にてサンプリングを行った結果、緑色蛍光源を塗布したトラップに自然海水中の褐虫藻が誘引される傾向を見出した。以上の成果により、本研究仮説「褐虫藻がサンゴの緑色蛍光タンパク質に誘引される」を示唆する、中核となる実験結果が出揃った。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、サンゴ生体そのものの蛍光に褐虫藻が誘引されるか、また、サンゴの蛍光タンパク質が共生成立の効率化に寄与しているかについて検討する。これらが実証されれば、「サンゴの緑色蛍光は褐虫藻を誘引する」という命題を支持するのに十分と考えられる。そこで、以上の研究結果をもとに論文を執筆し、国際学術雑誌に投稿する。本研究が完成されれば、サンゴが褐虫藻と効率よく共生を果たすために重要なメカニズムを解明することになる。さらには、蛍光タンパク質の生理・生態レベルでの役割を解き明かす研究への展開が期待される。
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次年度使用額が生じた理由 |
計画では、設備備品費としてLEDパネル光源を購入する予定であった。しかし条件検討の結果、既存の光源を調整することで十分な実験結果を得ることができたので購入を見送った。
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次年度使用額の使用計画 |
サンゴの緑色蛍光が褐虫藻の誘引及び共生成立に寄与することを実証するための実験を本格的に行うため、高額なサンゴ生体や消耗品の購入を予定している。また、研究成果を学術論文として執筆するので、掲載費としての計上を予定している。
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