研究課題/領域番号 |
16K14815
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研究機関 | 国立研究開発法人理化学研究所 |
研究代表者 |
中村 龍平 国立研究開発法人理化学研究所, 環境資源科学研究センター, チームリーダー (10447419)
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研究分担者 |
伊藤 克敏 国立研究開発法人水産研究・教育機構, 瀬戸内海区水産研究所, 主任研究員 (80450782)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 共生 / 海洋生態系 / 電子移動 / 底生動物 |
研究実績の概要 |
本研究では、硫化鉄鉱物から構成される深海熱噴出孔が「化学・熱・電気エネルギーの変換場」として働くことを示した申請者らの研究に基づき、電気化学代謝計測を海洋微生物-底生動物複合系に適用し、異種生物の相互作用により生成する電流の計測、ならびに電位変調による代謝制御を行うことを目的としている。 平成29年度は、高濃度の硫化水素ならびに電気伝導性を有する硫化鉄の存在下でも生存可能な新規海洋底生動物(Oligochaeta)と共生微生物複合系から生成する代謝電流のリアルタイム計測とNMRを用いた電位に応じた代謝生成物の解析を進めてきた。その結果、鉱物材料の電位に応じてOligochaetaの中心代謝(TCA)が変動することを見出した。より具体的には、餌投与により電位は大きく負にシフトし、Oligochaeta内にコハク酸の蓄積が確認された。コハク酸はTCA回路の中間体であり、その蓄積はTCA回路が停止してエネルギー生産の活性が低下していることを示している。電位が回復したサンプルではコハク酸の蓄積は解消されており、電位がOligochaetaの代謝を反映していることが確認された。 また、電気化学的に電位を任意的に制御した環境においてOligochaetaの代謝分析をNMRにより行った。その結果、負の電位を印加した際にはコハク酸の蓄積が観測された。一方で、電位を正に印加した環境で培養したOligochaetaにおいては、コハク酸の蓄積は観測されずTCAが活発化することを見出した。 以上の結果は、外部電位に応じてOligochaetaのTCA活性が変動し、その活性を人為的に制御可能であることを示すものである。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
電位に依存したOligochaetaの代謝産物の検出に成功したが、それに同調した微生物菌叢の特定には至っていないため。
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今後の研究の推進方策 |
電極電位に依存したOligochaetaの代謝産物の検出と同調する微生物菌叢の解析に着手する。また、電位に応じたOligochaetaの運動性についても検討を進める。それにより、本課題提案である、「電子・代謝分子・菌叢、そして運動性」という階層を超えた微生物・動物共生の動態を明らかにする。
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次年度使用額が生じた理由 |
微生物と底生動物の電気的相互作用の理解と制御を目的として、これまでにNMRを用いた代謝解析により、底生動物のTCAサイクルの制御が可能であることを実証した。しかし、電気刺激に伴う微生物叢の制御に関しては、サンプル間でのデータ変動が大きく、信頼に足るデータの取得に至っていない。電気刺激に応答する微生物叢を特定することを目的及び使途として、研究期間を1年間延長した。
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