本研究では、遺伝子発現現象からその機能を紐解く“生物版リバースエンジニアリング”を実現するため、基質誘導による機能遺伝子発現解析(SIGEX:Substrate Induced Gene Expression)を応用し、転写因子など機能遺伝子群の一部を遺伝子誘導を通じて捉えて未知遺伝子機能を特定すること、およびメタゲノムを初めとする大規模シーケンスデータまたはデータベースによる解析では特定困難な遺伝子機能を明らかにすることを目的とする。研究期間を延長して実施した平成30年度には、新規配列が多く得られるが、配列ベースの作用機序の推定を周辺配列等の付加的情報を基に実施することが可能となるように、メタゲノムシーケンスとの併用を実施するライブラリー作成について検討した。 上記を実施するにあたり、新たに下北半島沖の海底近傍から得られた堆積物試料などからDNAを抽出し、ナノポアシーケンサーであるMinIONシーケンサーを用いた塩基配列解析を実施してメタゲノム配列を獲得した。メタゲノム配列情報の獲得と並行して、これまでに実施していたライブラリー作成の手法に関しても再度の見直しを実施し、ライブラリー中の配列長が800~4500bp(平均1700bp)程度で、クローンバリエーションが100万を超えるライブラリーを構築することに成功した。これらのライブラリーについて、海底下環境の大部分が置かれている嫌気状態での基質誘導実験を実施した。実際に、浅部堆積物の深度と比較したところ、数十センチメートルの違いではあったが、海底下深度の大きい(深い)方から構築したライブラリーにおいて嫌気環境で高い割合の誘導クローンが見られた。
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