研究課題
ヒトを含めて霊長類は視覚の動物と考えられ、特に色覚は熟した果実の採食に重要と考えられてきた。しかし、霊長類の果実採食において、匂い嗅ぎ行動が頻繁に観察されることや、色覚において不利とみられてきた「赤緑色弱」が、昆虫などのカモフラージュ資源の獲得に有利であるという近年の知見などから、ヒトを含めた霊長類の感覚進化を再考する必要が生じた。果実は熟するにつれ、色や匂いを変化させ、果実食動物を惹きつける。動物の果実選択における色の効果は多く研究されてきたが、果実の匂い、動物の嗅覚、視覚の相互関係については知見が乏しかった。そこで本課題は、野生のシロガオオマキザル(Cebus imitator)の行動観察と、その採食果実の色度及び匂い物質の測定の統合を試みた。その結果、熟するにつれて匂い総量が増加する果実ほどサルは匂い嗅ぎ行動をより頻繁にとる、即ち、匂い嗅ぎ行動の頻度と果実の成熟に伴う匂い総量の増加に正の相関があることを明らかにした。また、2色型色覚(「赤緑色弱」)個体は3色型色覚(「正常色覚」)個体よりも頻繁に匂い嗅ぎを行い、色覚の不利を補う戦略をとっていることを明らかにした。これらの結果により、果実の物性、植物の種子散布戦略、動物の感覚、動物の採食戦略が複雑に相互作用している実態を明らかにし、霊長類の多様な採食行動への理解を深めた。本課題は、様々な植物種に対して、果実の色や匂いの多様な変化パターンに応じて、霊長類が色覚や嗅覚を相補的に、柔軟に使い分ける戦略をとっている実態を明らかにした。
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すべて 国際共同研究 (1件) 雑誌論文 (2件) (うち国際共著 2件、 査読あり 2件、 オープンアクセス 2件) 学会発表 (9件) (うち国際学会 2件、 招待講演 5件) 備考 (2件)
Nature Communications
巻: 10 ページ: 未定
10.1038/s41467-019-10250-9
Scientific Reports
巻: 8 ページ: 10883
10.1038/s41598-018-28997-4
http://www.jinrui.ib.k.u-tokyo.ac.jp/kawamura-home.html
http://www.jinrui.ib.k.u-tokyo.ac.jp/kawamura-home-E.html