最終年度では、時間知覚パフォーマンスと脳波の関連性を検証する実験を実施した。タスクに聴覚刺激を用いるため、初めに視覚刺激との特性の違いについて検討した。この結果、聴覚刺激を基準時間長とした時間長再現タスクを行う場合、視覚刺激の場合と比較して再現される時間長が長くなることが示された。この結果は、査読付きの学術誌「日本生理人類学会誌」に掲載された。また、聴覚刺激を用いた時間長弁別タスクでは、視覚刺激の場合と比較して、時間長弁別閾が半分程度になることが示された。これらの結果を踏まえ、時間知覚パフォーマンスと脳波の関連性を検証する実験を実施した。この結果、注意を反映する脳波成分と時間知覚パフォーマンスの関連性が示唆された。 期間全体での成果では、右後頭頂葉への経頭蓋直流電気刺激(tDCS)による時間知覚パフォーマンスの変化を調べた実験から、陰極tDCSを与えた場合に時間長弁別閾が減少する結果が得られた。時間長弁別閾が小さいほどわずかな時間長の違いを区別できることを意味することから、右後頭頂葉への陰極tDCSによって時間知覚パフォーマンスが向上したものと解釈でき、ヒトの時間知覚に関する右後頭頂葉の関与を実験的に示したものである。実験で得られた知見は、査読付きの国際誌「Journal of Physiological Anthropology」での原著論文、日本生理人類学会第75回大会、第13回国際生理人類学会議(イギリス)などで発表した。この知見は本研究によって初めて明らかになったものであり、時間長弁別と脳神経機能の関係の一端を明らかにすることによって、ヒトの時間知覚特性の生理的評価の可能性を確認することができた。
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