研究課題/領域番号 |
16K14827
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
有村 慎一 東京大学, 大学院農学生命科学研究科(農学部), 准教授 (00396938)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 植物ミトコンドリアゲノム / ゲノム編集 |
研究実績の概要 |
現在まで形質転換が不可能な植物ミトコンドリアゲノムの改変を目指して、CRISPR/CAS9システムを用いてゲノム編集による遺伝子破壊を目指した。イネについて、その遺伝子改変が生育に影響を及ぼさない領域を標的配列として複数を選択した。DNA切断の実行酵素であるCas9タンパク質にミトコンドリア局在化シグナルを付加させることで、このタンパク質のミトコンドリア局在を達成した。構築した当該ベクターに用いたミトコンドリア局在シグナルの有効性について、GFPとの融合タンパク質を作製し、パーティクルガン法による一過的発現と蛍光顕微鏡観察によって、遺伝子発現とミトコンドリアへの局在を確認した。4カ所の標的配列に対応するgRNAを、それぞれ核ゲノムから転写翻訳される様に形質転換ベクターを構築した。ミトコンドリア局在型Cas9とgRNAの発現ベクターをイネに導入し、得られた複数の形質転換植物について、ミトコンドリアゲノムの変化を調べたが、残念ながら現在の所、その破壊や変化は確認されていない。植物ミトコンドリアは、細胞質からtRNAの一部を細胞質から取り込むことができることから、gRNAも局在する可能性があり、もしくはCas9と複合体を形成して、Cas9のミトコンドリア局在シグナルに従って共輸送される可能性も考えられたが、このgRNAがミトコンドリアに局在していないことによって、遺伝子破壊が行われていない可能性が考えられる。現在、gRNAにミトコンドリア局在配列を付加することで、ミトコンドリアへの局在と標的配列破壊を狙って実験を継続している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
温室不具合により形質転換母体と形質転換後の植物が十分数得られず、一年間の延長を申請した。DNAコンストラクションは予定通り作製できた。Cas9タンパク質には、これまで当研究室で実績のあったミトコンドリア輸送シグナル配列を付加した上で発現させることで、ミトコンドリアへの局在が達成された。イネの形質転換も複数種類・複数系統についてある程度確立することができた。遺伝子破壊標的配列について、之までの研究から忌避配列(生育に必須遺伝子の場合、破壊により上手く形質転換が得られない)が明らかになっており、それらを避けて、またミトコンドリアゲノムのみならず、核ゲノムに存在するoff targetも避けて標的配列を設計できた。特に、核ゲノムにはミトコンドリアと全く相同な配列が存在質得ることが数多く報告されており、Numtもしくはpromiscous DNAなどと呼ばれるこの配列によって、遺伝子破壊やゲノム編集後の遺伝子解析の際に注意が必要となる。実際にゲノム編集にトライしたCas9にだけミトコンドリア局在配列を付加した実験は残念ながら上手く行かなかったが、最近の文献知見などから、gRNAに(ミトコンドリア局在のために)付加すべき配列が報告されており、これを利用してベクターを現在改良している。
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今後の研究の推進方策 |
上記gRNA単独で、ミトコンドリア局在させることを検討するために、細胞質からミトコンドリアへ局在することが知られているtRNA複数種の一部配列を融合下発現ベクタの構築を行っている。また、しかしながらそのような付加配列によって、Cas9/gRNAの複合体形成や、DNA切断活性に変化が出ないように、in vitroのアッセイを行っている。また、Cas9/gRNAのみをもちいるのではなく、Cpf1等の使用を検討している。この場合、DNA切断酵素のみならず、DNA配列認識に使用されるgRNAの配列と高次構造も異なっているため、ミトコンドリア局在配列付加による、複合体形成と活性変化への寄与も異なると考えられる。
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次年度使用額が生じた理由 |
当初計画通り、ミトコンドリア局在型Cas9と通常型gRNAの組み合わせベクターを作製したが、温室不具合により形質転換体を十分な数得られなかった。また、遺伝子破壊用形質転換植物体もいくつか得られたが、当該植物の生育が貧弱であるため、温室であっても時期・季節を選んだ生育が必要である。実験に十分な量のサンプル数を揃えるため、一年間の延長を希望した。また、そこで、一年目に予備実験的に得られたデータを元に改良を行っており、gRNA側にミトコンドリア局在配列を付加させ、その局在とCas9との複合体形成、標的DNA配列の切断活性など、幅を広げる実験も行うことにした。
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次年度使用額の使用計画 |
新たなベクター構築が必要となったため、そのための人工オリゴDNA配列、各種制限酵素やライゲースなど、クローニング試薬関連が必要であり、in vitroにおける活性実験の為のキット、イネ形質転換のための培地などが必要である。基本的な操作は初年度と変わらない。
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