植物は環境変化に応答して物質代謝や光合成機能、ソース・シンク機能の切替えを行うことにより様々な環境下において生存する能力を持つ。このような機構において中心的役割を担っているのは細胞小器官プラスチドであり、その機能は核ゲノムとプラスチドゲノムにコードされた遺伝情報の協調的発現制御によりコントロールされている。近年、核ゲノムの遺伝子機能解析が着実に進行している一方で、プラスチドゲノムの遺伝子機能研究はごく一部の植物種でしか実現していない。それはプラスチドゲノムの形質転換法が確立されていないためである。そこで本研究はいまだ有効な方法が開発されていないイネのプラスチド形質転換法を開発することを目的に、その基盤技術である培養法の改良と選抜系の検討を行った。具体手には導入効率の向上が期待される緑色組織への遺伝子導入・再分化系の構築、および新規選抜法として効果を見出していた亜硝酸選抜系のイネへの適用性を検証した。緑色組織の培養系としては幼苗茎頂近傍の緑色組織培養によりカルス誘導・再分化に成功し、さらに多数の緑色シュートの集合体である多芽体の脱分化誘導によるカルス形成が可能であることを確認した。したがってこれらの緑色組織はパーティクルガンによるイネプラスチド形質転換における新たなターゲット組織として利用できると考えられる。また、亜硝酸選抜法によるイネカルスのプラスチド形質転換を行い、PCR法による遺伝子導入確認を行ったところ、非常に高効率で導入遺伝子断片の増幅が確認された(87個体/3プレート導入)。T1世代への導入遺伝子の伝搬も同様のPCR法により確認された。しかしながら詳細解析の過程で、断片的な挿入の可能性や導入後の再編成、核ゲノムへの導入の可能性が示唆されたため、現在、導入確認個体の全プラスチドゲノムの解読を進めている。
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