研究課題/領域番号 |
16K14836
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
三屋 史朗 名古屋大学, 生命農学研究科, 講師 (70432250)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | イネ / 塩ストレス / 耐塩性 / 葉鞘 / 塩排除能 |
研究実績の概要 |
平成29年度は、イネ葉鞘における塩排除機能を発現する組織を同定するため、イネ葉鞘における軸方向の塩分布を調べた。その結果、塩ストレス条件下でのナトリウムイオン、塩化物イオンの軸方向の分布は異なり、ナトリウムイオンは特に葉鞘の基部において多く蓄積し、塩化物イオンは葉鞘の中央部から先端部において多く蓄積した。カリウムイオンは塩化物イオンと同様であり、塩ストレスを与えると葉鞘の基部において顕著に減少した。一方、塩ストレスを与えていない場合は、ナトリウムイオンの蓄積はカリウムや塩化物イオンと同様であった。これらのことは、塩ストレス下ではナトリウムイオンの排除能を司るタンパク質またコード遺伝子は特に葉鞘基部において発現し、一方塩化物イオンの排除能を司るタンパク質またコード遺伝子は葉鞘中央部または先端部で発現することが示唆された。またナトリウムイオンと塩化物イオンではその排除能の発現部位が異なることが分かった。 さらに、葉鞘と葉身の間で塩輸送量が減少することから、葉鞘と葉身間にあるラミナジョイントの関与が考えられた。しかしラミナジョイントが欠損したイネ突然変異体においても野生株と同程度の葉鞘における塩排除活性が見られたことから、ラミナジョイントにおける組織がナトリウムや塩化物イオンの逆方向への輸送を司るのではなく、葉鞘の基部や中央部、先端部においてこれらのイオンが道管からその周辺柔細胞に取り込まれることが示唆された。 葉鞘における塩排除活性の品種間差に関与する一塩基多型(SNP)を同定するため、323品種のイネを用いたGWAS解析を行った。この結果、葉鞘におけるナトリウムイオンの排除量に関わるSNPを第5染色体上に、および塩化物イオンの排除量に関わるSNPを第3,4染色体以外の染色体上に見出した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
昨年度の懸念であった、GWAS解析における表現型の解析について、数千というサンプルがあったたが、効率的な測定方法を開発することによって、予定していた表現型解析が予定通りに終了し、有意なSNPを得ることができた。 また、葉鞘におけるナトリウムイオンと塩化物イオンの動態を追跡し、軸方向ではナトリウムイオンは葉鞘基部、塩化物イオンは基部以外が重要であり、放射方向ではいずれも中央部柔細胞が重要であることを明らかにすることができ、予定していたところまで終了することができた。
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今後の研究の推進方策 |
これまでの研究において、葉鞘の軸方向、放射方向において、塩排除活性が高い組織を見出した。今後の研究の方針方策としてこれらの組織を用いて、ナトリウムイオンおよび塩化物イオンの輸送に関わるとされる輸送体タンパク質をコードする遺伝子群およびイオン輸送に関わる遺伝子群(プロトンポンプなど)の発現様式を調べる。
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次年度使用額が生じた理由 |
29年度はGWAS解析における表現型の解析を終了させることを第1目標とした。この表現型解析ではサンプル数が非常に多かったため、葉鞘内組織における塩の動態に関わる遺伝子群の発現解析を行わず、表現型解析を行った。このため、葉鞘内組織に於ける塩の動態に関わる遺伝子群の発現解析に使用する予定であった消耗品などの購入がなかったため、当該助成金が生じた。30年度にこの遺伝子群の発現解析を行うため、当該助成金を使用する予定である。
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