地球温暖化による様々な異常気象現象(高温や低温,フェーン,台風など)は食用作物における収量および品質に大きな障害を与える.とりわけ開花期における受粉・受精過程が受けた場合,最も被害が大きくなる.しかし,突発性の気象災害は事後の調査にとどまることがほとんどで,圃場レベルでの再現もリアルタイムの調査も難しいことから.本研究では最も非生物的ストレスに弱い過程である受粉・受精過程を高価な機材を必要としない範囲で精細に観察できる撮影方法の開発を行った.複数のカメラによる3次元画像の合成,汎用の工業用ファイバースコープによる近接撮影,深度合成機能内蔵のデジカメによる深度合成法の3つを試みた.このうち深度合成内蔵カメラのレンズに5~15倍のルーペを取り付けて,マイクロポジショニングプレートに接続し,イネの穎花に均等に少しずつ接近させて撮影することによって深度合成する開花過程の撮影システムがもっともよい結果を得られた.深度合成はカメラ内蔵プログラムあるいはHelicon Focusによって行った.ポット栽培したイネの開花が始まる予定時刻の1~2時間前から開花終了1時間後までこの撮影システムでイネの開花過程を観察した.得られた深度合成画像をPanolapseによって動画を作成した.デジカメのレンズに5~15倍のルーペを取り付けたことで,ピントの合う範囲は狭くなるが,カメラの自動深度合成機能によって葯,柱頭,花粉などの花器内にピントが合った精細な拡大画像を得ることができた.しかし,開花にともなう穂の動きはピントがずれる原因が発生したため,ピントの合わない写真も多かった.簡単な風洞内でもこのシステムによって撮影を試み,3m/s程度までの弱い風であれば撮影が可能であることを確認した.このことから弱風の環境条件では撮影可能ではあるが,強風をともなう気象障害の観察にはさらなる工夫が必要と考えられた.
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