我が国におけるダイズの自給率は低く、その向上のために水田転換畑を活用して増産を図ることが必須であるが、ダイズの出芽期の梅雨による湿害は、複合要因に起因し生育阻害が障害になって、生産拡大が進んでいない。生産性の安定・向上のためには、栽培環境の改善に加えて、ダイズに耐湿性を付与することが重要である。固体とは異なった物理的・化学的特性を示すナノ粒子を利用して、植物における機能発現に至る機構を解明し、ダイズにおける湿害を改善する技術を開発する。 既に平成28年度に同定されたアルミニウム、鉄、銅ナノ粒子添加により変動するタンパク質群において、蓄積量の経時的変化を用いてクラスター解析を行い、ナノ粒子添加によるタンパク質の変動パターンから、ダイズ湿害機構および湿害耐性機構を推定した。クラスター解析後、情報科学的にタンパク質間相互作用を解析し、ナノ粒子の機能発現の鍵となるタンパク質群を絞り込んだ結果、ミトコンドリアに存在するタンパク質群の関与が明らかになった。関連する酵素群の酵素活性測定し、プロテオミクス解析の結果を検証した。一方で、定量PCRにより遺伝子発現レベルでも同様に変動していることを確認した。ダイズにおいて明らかになったナノ粒子の影響をもとに、湿害に弱いコムギにおける作用機構との差異を解析した結果、解糖系を介するエネルギー代謝系に関しては、ダイズと同様な結果を得られた。さらに、ダイズにおいてはアルミニウムナノ粒子が、コムギにおいては鉄や銅ナノ粒子が効率的に作用することも明らかになった。
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