研究実績の概要 |
私たちは浮遊性水生植物、いわゆるウキクサの表層に共生する細菌 Acinetobacter calcoaceticus P23株が、ウキクサの成長を約 2倍に促進することを世界に先駆けて発見した (Environ. Sci. Technol. 44, 6470-6474 (2010))。さらに、P23株が単子葉植物であるウキクサ以外にも双子葉植物であるレタスに対してもクロロフィルを増加させることを見出している(特願 2013-150997, J. Biosci. Bioeng. 118, 41-44 (2014)。本研究課題では、水生植物と成長促進微生物との相互作用分子機構を明らかにすることを主目的とした。 まず、P23株の培養上清中に生産される植物成長促進因子が、エタノールを2倍量添加することによって沈殿として回収できることを見出した。この化合物は紫外波長域に特異的な吸収スペクトルを有さず、90℃10分間の加熱処理でも活性を維持したことから、核酸やタンパク質ではなく多糖類であることが判明した。そこで糖の組成分析を行った結果、N-acetylglucosamine: Glucose: Galactose = 17:2:1 であることが分かった。一方、酵母マンナンがウキクサ植物成長促進活性を有していることを発見した。マンナン合成酵素変異株を用いて活性を評価した結果、ウキクサ成長促進活性には、マンナンの主鎖α-1,6ポリマンノース構造が必要であり、側鎖構造は必要ではないことを見出した。また、酵母マンナンはウキクサによって分解されて細胞内に取り込まれてから作用するのではなく、長鎖多糖化合物のままウキクサ細胞表層に存在するなんらかの受容体を刺激して成長を促進することを示唆する結果を得た。 以上、本研究によって新しい植物-微生物相互作用の分子機構の一部が解明できた。
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