山形県の特産果樹のセイヨウナシの消費拡大に向け、高付加価値新品種の育成が求められている。中でも果皮全面が赤く着色する形質は消費者の目を惹きつける特性として特に注目されているが、全面着色セイヨウナシ品種は周縁キメラによって形成されたものが多く、交配育種に利用できない。そこで本研究では、セイヨウナシ育種上非常に重要視されている果皮の赤着色形質について、交配育種に利用できない周縁キメラ個体から果皮培養によって着色形質を分離するための培養条件の検討を最初に行った。その結果、ショ糖3%を含む改変NN培地にナフタレン酢酸0.1 mg・L-1およびチヂアズロン 5mg・L-1、固化剤としてゲランガム 0.4%を添加した条件が果皮からの脱分化カルスの形成に適していることが明らかとなった。最終年度は育種母本を作成するためにシュートの再分化に最適な培養条件の検討を行ったがシュート形成には至らなかった。しかしながら、脱分化により形成されたカルスにおいて、周縁キメラのL1層由来の組織由来であると考えられる赤く着色したカルス、L1層以外の組織または変異していないL1層組織由来と考えられる緑色または白色のカルスが見いだされた.得られた赤着色カルスと非赤着色カルスを様々なアプローチから比較することで着色機構が明らかとなると考え、最初に代謝物の解析を行った。メタボローム分析の結果、アニオン性代謝物37種類,カチオン性代謝物106種類の代謝物を検出し、クロロゲン酸とキナ酸において着色カルスに多く含まれており,シキミ酸経路の活性が非常に高いことが示された。一方、シキミ酸経路から合成されるフェニルアラニンについては着色カルスの含有量が低かった。これはフェニルアラニンから始まるアントシアニンの合成に使用されているために含有量が低くなり、セイヨウナシの赤着色変異機構の一部が明らかとなった。
|