今年度は、昨年度に引き続き、比較的材料供給に余裕があるメダケ赤衣病菌(Stereostratum corticioides)を用いた微少サンプルからの効率よい核酸抽 出方法について検討するとともに、次世代シーケンサー(NGS)を用いたDNA解析に必要とされる、長鎖DNAの取得方法についても検討を加えた。今年度採集した、比較的新鮮なメダケ赤衣病菌の冬胞子を用い、ガラスホモジナイザーによる磨砕、あるいは乳鉢による磨砕で、SDSとProteinase Kを含む抽出緩衝液によるDNA抽出を試み、それらの収量と品質についてアガロースゲル電気泳動を用いて調査した。その結果、ガラスホモジナイザーを用いた場合ではDNAの断片化が顕著であり、望ましい品質のDNA試料を得ることは困難であること。乳鉢を用いた方法では効率良いDNA抽出は難しく、DNAの収量はガラスホモジナイザーを用いた場合と比較して著しく劣ることなどが判明した。DNA抽出効率が悪いのは乾燥標本で顕著であり、PCR増幅無しでNGSを用いた解析を実施するのは極めて困難であると考えられた。今後は抽出緩衝液の組成と、破砕方法について十分な検討が必要であり、穏和な冬胞子の破砕方法の開発が必須であることが認識された。 昨年度に検討した、染色体外遺伝因子として重要なウイルス由来の二本鎖RNAの検出を試みたが、今年度採集したサンプルからはアガロースゲル電気泳動では明瞭なバンドが確認できず、予想外の結果となった。過去の研究結果(1985-1990年に本研究代表者が実施)では日本国内で採集された全てのメダケ赤衣病菌からウイルス粒子が検出されており、それらの分布は普遍的であると思われたが、本年度の標本からは検出出来なかった。今後引き続き調査を続け、ウイルスの在非とそれらの分布について調べることで、本菌のウイルスに関する新知見も得られる可能性がある。
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