研究実績の概要 |
自然界では,病原体が一個体の植物に単独感染より混合感染がしていることが多い。ウイルスの混合感染では一般的に,異種ウイルスとの混合感染により強い症状を示し,同種ウイルスの異なる系統の混合感染により干渉作用が関与して弱い症状を示す。これらの現象に着目し,異なる2種ウイルス以上が混合感染した多くのアブラナ科植物やユリ科を採集してきた。それらの一部から2種のウイルスを分離後,両ウイルスゲノムを調査したところ「共進化」特有の塩基変異を見出したことから,未だ知られていない病原体間の「共進化」機構を解明することを目的として研究を遂行している。世界中の圃場よりカブモザイクウイルス(TuMV)とキュウリモザイクウイルス(CMV)の混合感染植物を240分離株以上を採集し,それら感染植物の植物汁液をキノアに接種し,準種を均一にするために最低3回の単病斑分離を繰り返し局部病斑を作らせ,両ウイルスを純粋にしてきた。既に各ウイルス70分離株については,共通宿主であるNicotiana benthamianaを用いて増殖させウイルスゲノムの全塩基配列をこれまで決定してきた。なお,TuMVは一本鎖RNAで約9,800塩基,CMVはRNA1,RNA2およびRNA3の分節ゲノムRNAで約8,100塩基である。 そこで平成28年度においては地理的あるいは進化的に考慮した残りの分離株について,ゲノムの全塩基配列を決定すると共に,ゲノムインフォマティクスを用いて病原体の「共進化」関係の再探査を開始した。具体的には,30分離株の各TuMVとCMVゲノムの全塩基配列の決定を行い,現在,ゲノムインフォマティクスによる継続的な探査を行った。さらに多くのウイルスが混合感染して共進化していると思われるユリ科植物のウイルスについてもウイルスゲノムの塩基配列を決定し,共進化機構についても考察した。
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