研究課題/領域番号 |
16K14870
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研究機関 | 岐阜大学 |
研究代表者 |
小林 佑理子 岐阜大学, 応用生物科学部, 准教授 (40610952)
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研究分担者 |
小郷 尚久 静岡県立大学, 薬学研究院, 講師 (20501307)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | リンゴ酸分泌 / AtALMT1 / 酸性土壌耐性 / 化合物ライブラリー / ケミカルスクリーニング / シグナル伝達経路 |
研究実績の概要 |
植物の酸性土壌ストレス(アルミニウム,酸ストレス)耐性の主要な転写制御は,タンパク質リン酸化を介したシグナル伝達系が関与すること,また,動物の低酸素ストレス応答や自然免疫応答に一部共通することが示唆されている.そこで,本研究ではがん研究などで使用される低分子化合物のシロイヌナズナでの標的分子の同定を通じて,アルミニウム及び,酸ストレスのシグナル伝達に関わる遺伝子や機構を同定することを目的とした. 本研究では,酸性土壌耐性機構であるリンゴ酸分泌量や,それを担うリンゴ酸トランスポーターALMT1の遺伝子発現に影響をおよぼす化合物のライブラリースクリーニングを実施した.具体的には,創薬研究に使用されるリン酸化酵素阻害剤,ヒートショックプロテイン阻害剤など約600種以上の化合物をそれぞれ添加した溶液でシロイヌナズナを短時間培養し,リンゴ酸分泌及び遺伝子発現量をALMT1 プロモーターGFP蛍光観察または定量した.一次スクリーニングでリンゴ酸分泌を20%低下させた化合物について,二次スクリーニングを行い,リンゴ酸分泌及びALMT1遺伝子発現量を抑制する化合物を数種類同定した.その中には,ALMT1過剰発現組換え体のリンゴ酸分泌量を抑制する,すなわちALMT1活性化に影響を及ぼす化合物も含まれていた.ヒット化合物には,有機アニオントランスポーター活性を特異的に阻害する化合物やMAPキナーゼ,ユビキチン阻害剤などが含まれていた.ヒット化合物から,MAPKカスケード,タンパク翻訳,DNA損傷,細胞の分化などの機構がALMT1活性化機構に関与していることが推察された.それら化合物のヒトにおけるターゲット因子とシロイヌナズナで相同性が高い遺伝子について,遺伝子破壊株の耐性評価や化合物-タンパク質ドッキングモデル計算予測を試みている.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
化合物ライブラリーのスクリーニングはほぼ終了し,ヒット化合物を選抜することができた.また,それらから新しいAlストレス応答の機構が示唆された.ヒット化合物の影響については,再現性の確認も終えており,ターゲット因子の相同性遺伝子の評価に進んでいる.ただし,AtALMT1とは別のSTOP1遺伝子のストレス応答をモニターしたスクリーニングや,遺伝子破壊株評価ができない場合,化合物-タンパク質ドッキングモデルの計算予測には検討が必要であった.
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今後の研究の推進方策 |
低酸素応答を担う重要分子であるHIF 転写因子の阻害剤化合物ライブラリーについてもスクリーニングを試みる.今年度得た化合物も含め,Al応答に影響を与えた化合物の植物の標的分子の選抜には,遺伝子や作用機序について動植物間の相同性をインフォマティクスで考察し,化合物-タンパク質ドッキングモデルを計算予測する.また,これまでに行った酸及びAl ストレスに関するゲノムワイド関連解析による関連遺伝子座情報,マイクロアレイ解析による網羅的遺伝子発現情報を利用し,シロイヌナズナにおけるターゲットを絞りこみたい.
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次年度使用額が生じた理由 |
産前産後の休暇,育児休業を約半年間取得その間研究を一時中断し,一部の化合物ライブラリースクリーニング,候補遺伝子が絞り込めなかった遺伝子破壊株の評価等は来年度に実施することになったため.
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次年度使用額の使用計画 |
研究後半においては,比較的高価な分子生物学実験(RNA 実験,分子相互作用実験など)やマイクロアレイ解析に関わる消耗品,またスクリーニング時に必要なプラスチック消耗品などを購入する必要がある.また,未評価である遺伝子破壊株シロイヌナズナ種子をリソースセンターより購入し,栽培に必要な消耗品が必要である.その他には,研究成果を学会で発表するための出張旅費及び,国際科学誌に学術論文を投稿するための経費に充当する.
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