研究課題/領域番号 |
16K14874
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研究機関 | 国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構 |
研究代表者 |
早津 雅仁 国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構, 農業環境変動研究センター 物質循環研究領域, 主席研究員 (70283348)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 硝化 / アンモニア酸化 / 親和性 |
研究実績の概要 |
培養微生物の活性に比べ土壌中の微生物活性のエネルギー源や炭素源に対する基質親和性が高いことは古くから知られている。しかしこのギャップの原因は未だに不明である。特に硝化反応では、純粋培養の硝化菌に比べて土壌の硝化のアンモニアに対する親和性は高く、より低濃度のアンモニアを酸化する。我々は独自に分離した耐酸性アンモニア酸化細菌(TAO株)のゲノム情報と培養実験から、細胞凝集体が微生物の土壌における低濃度基質に適応した存在形態で、独自の基質取り込み機構を持つとの仮説を得た。本課題では、土壌中で硝化菌は細胞凝集体を形成し、純粋培養菌(単細胞遊離状態)よりも低濃度の基質(アンモニア=エネルギー源)を効率的に利用することを明らかにする。本年度は、土壌から直接生きたままの細胞凝集体をセルソーターで分取する方法を確立するために、TAO株をアンモニア濃度と培地pHを変えて培養して、様々な大きさの細胞凝集体を調製する方法について検討した。その結果、培養時間を長期するほど凝集体が成長し大きくなった。しかし培養のタイミングによっては凝集体を形成しないなど不安定な場合もあった。これらのことから、TAO株の情報だけでは、土壌からの硝化菌凝集体の分離に必要な情報が限定されると考え、TAO株と類似の酸性耐性型のアンモニア酸化細菌をTAO株を分離した地域とは地理的に異なる地域からの分離を試み、細胞凝集体を形成するアンモニア酸化細菌の分離に成功した。これらはいずれもγプロテオバクテリアに属すると推定された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年は、目的とするアンモニア酸化細菌のマイクロコロニーをその形状情報に基づいてセルソーターで分離するために必要なマイクロコロニーの物理的性状に関する情報を得るために、我々が独自に分離した新属新種の耐酸性アンモニア酸化細菌(Candidatus Nitrosoglobus terrae TAO株)を様々な条件で培養し、細胞凝集体を形成させた。これは細胞凝集体の前方散乱光(大きさ)と側方散乱光(複雑さ)に関する情報を得てセルソーターで分離するためである。培地に緩衝液を入れpHを一定にすると細胞が単細胞状態に分散して凝集体を形成しなかったが、緩衝液を加えずに酸性化する過程で凝集体を形成した。このことからpHを変動させて様々な大きさの凝集体を得ることとした。しかし凝集体が単細胞化することなく凝集体として増殖するため、セルソーターで分別できる大きさよりさらに大きな凝集体となった。また植菌のタイミングによっては単細胞状態で増殖するなど凝集体を形成しないことがあった。このことは凝集体形成の発現に関する遺伝子レベルでのメカニズムの検討の必要と考えられた。一方、一菌株では情報が限定されるので、TAO株と類似の酸性耐性型のアンモニア酸化細菌を新たに3株分離した。以上により本年度は達成目標に届かなかったものの、γプロテオバクテリアに属する3株のアンモニア酸化細菌を分離し細胞凝集体の形成を確認するという成果を得た。以上を総合して計画通りの進捗と判断した。
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今後の研究の推進方策 |
独自に分離したアンモニア酸化細菌を用いて、細胞凝集体の形成条件等を検討した。細胞凝集体の形成は条件によって異なることから、遺伝子レベルでの制御機構の存在が推定された。さらに正確な情報を得るために、凝集体を形成する耐酸性アンモニア酸化細菌を新たに3菌株分離した。新たな菌株の分離は当初計画にはなかったが、凝集体形成に関する情報を得るには1菌株では不足と考え実施した。これらの分離菌株のゲノム情報の比較により、単細胞状態と凝集体状態のアンモニアや酸性耐性のメカニズムを検討し、また凝集体の特性を明らかにする予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
菌株の分離と培養実験などに時間を要したため、高額試薬の使用量や次世代シーケンサーの稼働回数が予定よりも少なかった。また途中から微生物の分離にも着手したため、遺伝子解析等が次年度にまたがることになった。以上によりの高額試薬の使用が次年度にずれ込んだ。このため平成28年度分の予算執行が予定より少なく次年度使用額が生じた。
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次年度使用額の使用計画 |
平成29年度は、環境DNAとRNAさらには分離菌ゲノム解析、トランスクリプトーム解析などを実施するため次世代シーケンサーを多数回稼働する。また分析壌サンプルが増え、これらからRNAやDNAの抽出するために高額試薬の使用が多くなる予定であり、これらにかかる経費を支出する。また一連の遺伝子解析作業では、熟練のテクニシャンを雇用し、効率的に実験を進めるために、賃金を支出する予定である。以上により適正な予算執行を計る。
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