純粋培養の微生物に比べて土壌に存在する微生物のエネルギー源や炭素源に対する基質利用能力は高く、生存能力が優れていることは古くから知られている。しかし純粋培養と土壌中におけるこのギャップのメカニズムは不明である。特に硝化菌(アンモニア酸化細菌)は、純粋培養に比べて土壌の硝化反応におけるアンモニアに対する利用性は高く、より広範囲の濃度のアンモニアを酸化する。我々は独自に分離した耐酸性アンモニア酸化細菌(TAO株)のゲノム情報と培養実験から、細胞凝集体は微生物の土壌における広範囲の基質濃度に適応した存在形態で、独自の基質利用機構を持つとの仮説を得た。本課題では、土壌中で硝化菌は細胞凝集体を形成し、純粋培養に比べてより広範囲な環境条件で良好に生育する機構を検討する。本年度は、我々が独自に分離した凝集体を形成するTAO株と類似の酸性耐性型のアンモニア酸化細菌を分離した。得られた菌株の細胞凝集体をメタゲノム解析したところ、共通する硝化菌以外の菌株の存在が明らかになった。また耐酸性凝集体の一つはγ―プロテオバクテリアに属するアンモニア酸化細菌と耐酸性亜硝酸酸化細菌が共存し、この2株を中心に十数種の細菌から凝集体を形成していた。これらは広範囲のアンモニア濃度、pHあるいは抗生物質存在下でも生育した。一方、耐酸性完全硝化菌を中心とする複数種の細菌からなる細胞凝集体を得た。これらの細菌集団は安定的に維持された。このことから細胞凝集体は硝化菌を中心に形成された複数種の細菌から成り、これまで雑菌と思われていた細菌が硝化菌が安定的に生存する凝集体の形成に役立っており、土壌中の硝化菌の生存を支えていると推察された。
|