研究課題
本研究では、環境を汚染する難分解性有機塩素系殺虫剤分解細菌株と、その分離源となった分解細菌コミュニティをモデルとして、(1) 分解細菌株と分解能を持たない他細菌株との関係性、(2) 実環境の標準的な条件と考えられる極貧栄養環境下での分解細菌株の生育、の2点に着目し、環境細菌の実環境での「生き様」に関する理解を深め、分解細菌の効果を最大限に発揮するための汚染環境への具体的接種方法の提示など、実環境での環境浄化への応用のための理論的基盤を構築することを目的とする。これまでのメタゲノム解析によって、本コミュニティは分解菌TKS株と複数種の非分解菌によって構成されていることが明らかとなっている。特にコミュニティ内での存在割合が多かった非分解菌のTKC株とTKP株、および分解菌TKS株を含めた3株の土壌での生残性を調べた結果、TKC株は接種後1週間以内にコロニー形成能を持つ細胞数が増加したが、TKS株とTKP株は徐々に減少し、土壌に定着できなかった。しかし、TKS株はTKC株と混合して滅菌土壌に接種された場合に増殖でき、土壌環境への定着において他者を必要とする場合があることが明らかとなった。また、TKC株は一部の低栄養性培地にて、TKS株と混合して固体培地に接種すると、TKS株コロニーに向かって細胞増殖をすることがわかった。この結果は、TKC株が積極的にTKS株とコミュニティを形成する可能性を示している。一方、UT26株で観察されたアルコールデヒドロゲナーゼ遺伝子 (adhX) を高発現させると有機炭素源非添加の無機固体培地でCO2の固定を伴ってコロニー形成する現象が、UT26株のみならずTKS株や系統的に離れた細菌株でも観察されることを確認した。また、本現象に特定のアルコール基質がアルデヒドを経て代謝される過程が関与している可能性が低いと考えられる結果が得られた。
2: おおむね順調に進展している
コミュニティの構成原理に関しては、分解細菌の土壌への定着に非分解細菌の存在が必要であること、非分解細菌が分解細菌に向かって積極的に細胞増殖をすること、という2つの重要な発見をすることができた。また、有機炭素源非添加の無機固体培地でCO2の固定を伴ってコロニー形成する現象の普遍性を示し、その機構の解明に繋がる結果が得られた。以上、本質的に重要な結果が得られたことから、おおむね順調に研究が進んでいると判断した。
コミュニティの構成原理に関しては、初年度に発見した分解細菌の土壌への定着に非分解細菌の存在が必要である、非分解細菌が分解細菌に向かって積極的に細胞増殖をするという2つの興味深い現象の分子機構の解明に迫る。そのために、TKC株の全ゲノム配列を決定し、分子遺伝学的手法を用いて関連遺伝子群を明らかにする。一方、有機炭素源非添加の無機固体培地でCO2の固定を伴ってコロニー形成する現象についても、トランスポゾン挿入突然変異株ライブラリーを次世代型シーケンサーで網羅的に解析する手法を用いて関連遺伝子群を明らかにし、その機構解明を目指す。
トランスポゾン突然変異株ライブラリーの作製に時間がかかり、次世代型シーケンサーによる解析に至らなかったため。
トランスポゾン突然変異株ライブラリーの次世代型シーケンサーによる解析の試薬代として用いる。
すべて 2017 2016
すべて 雑誌論文 (5件) (うち査読あり 5件、 オープンアクセス 2件、 謝辞記載あり 1件) 学会発表 (22件) (うち国際学会 2件、 招待講演 1件) 図書 (1件)
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