我々は、ロドコッカス属放線菌由来ニトリラーゼの強力な誘導型遺伝子プロモーターがストレプトミセス属放線菌で機能することを初めて発見し、本プロモーターを利用してストレプトミセス属放線菌で機能する誘導型高発現ベクターの開発に成功した。しかし、誘導剤化合物の毒性のため、宿主によっては低濃度での誘導剤添加による生育阻害や、高濃度の誘導剤添加で得られる菌体量の極端な減少などがあり、改善の余地がある。本研究では、全ゲノム決定放線菌を対象とし、著量のタンパク質発現を引き起こす誘導物質のスクリーニングを行う。続いて、誘導物質により誘導発現するタンパク質を同定し、その上流に位置すると予想される誘導型プロモーターや誘導発現調節タンパク質などの制御機構を解明し、ストレプトミセス属放線菌を宿主とする高性能新規誘導型高発現系の開発に利用可能な知見を得ることを目的とする。 平成28年度に同定した(誘導剤により発現が増加する)タンパク質をコードする遺伝子(以下、当該遺伝子)の周辺領域には、少なくとも2つの転写調節タンパク質と相同性を示す遺伝子が存在し、どの遺伝子産物が当該遺伝子の誘導発現に関わるかは同定できなかった。そこで、平成29年度はまず、(当該遺伝子や周辺の転写調節タンパク質遺伝子を含む)周辺9遺伝子の破壊株作成用プラスミドを構築し、接合伝達により本プラスミドを放線菌に導入し、二回交叉により本領域の破壊株を作成した。次に、当該遺伝子を含む本領域について様々な断片を作成し、切り縮め実験を行った結果、誘導発現調節に関与するタンパク質遺伝子を同定することに成功した。さらに、プライマー伸長法により、当該遺伝子の転写開始点を決定することに成功した。
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