微生物を用いた有用物質生産において、宿主細胞の増殖が停止する定常期で目的物質を生産させる手法は、投入した炭素源や窒素源などの資源を効率よく目的物質生産に利用することができる技術として注目を浴びている。 本研究では、微生物細胞による定常期での有用物質生産技術の開発に向け、培養液に添加するだけで微生物細胞を定常期へと導き、かつ増殖が停止しても目的物質生産のための糖代謝活性を維持させることを可能にする化合物を探索する実験系を構築する。そして、実際に化合物の探索を行い、探索された化合物がどのような作用機作で微生物細胞を定常期へと導くのかを解明するとともに、有用物質生産への効果を検証する。 微生物細胞を定常期へと導き、かつ増殖が停止しても目的物質生産のための糖代謝活性を維持させる化合物の探索に向けて、前年度までに構築した大腸菌において炭素源の取り込みにかかわるタンパク質 (ptsG、ptsオペロン)や解糖系における代謝調節にかかわる重要な酵素をコードする遺伝子 (gapA、eno、pfkA)のプロモーター配列にlacZ遺伝子を連結させた遺伝子を持つ低コピープラスミドを持つ大腸菌を用いて、既知の抗生物質を用いた探索系の評価に着手した。また、未知の放線菌培養サンプルを用いて、微生物細胞を定常期へと導きかつ増殖が停止しても目的物質生産のための糖代謝活性を維持させる化合物を生産すると考えられる放線菌の探索にも着手した。
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