研究課題/領域番号 |
16K14882
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
邊見 久 名古屋大学, 生命農学研究科, 准教授 (60302189)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | アーキア / 膜脂質 / バクテリア / 細胞膜 / 酵素 |
研究実績の概要 |
アーキア膜脂質の存在が同脂質を生産する大腸菌の細胞膜に与える影響を調べることを目的とし、まずは生産量の向上を図った。酵母のメバロン酸経路の遺伝子をプラスミドによりアーキア膜脂質生産大腸菌に導入し、さらに同経路の中間体を与えるメバロノラクトンを培地に添加することでアーキア膜脂質の生産量を向上させることに成功した。しかし、達成された生産量は膜の性質を調べるにはまだ不十分なレベルであり、さらに高生産状態は不安定で維持することが難しかった。そこで、その改善を目的として複数種のアーキアおよびバクテリアからアーキア膜脂質などイソプレノイドの生合成前駆体供給経路であるメバロン酸経路関連酵素の遺伝子を単離した。それらの酵素の一部は、近年我々が見出した変形メバロン酸経路に関与するものであり、それ以外の酵素も、古典的な真核生物型のメバロン酸経路に関与するものの、既知酵素とは大きく配列が異なっている。それらの遺伝子の大腸菌への導入によって、アーキア膜脂質をはじめとするイソプレノイドの生産を大幅に向上させることができると期待している。特に、バクテリア由来の一部酵素については、生成物によるフィードバック制御を受けないという予備的な結果が得られており、導入の効果が高いと予想される。 また、多様な構造のアーキア膜脂質の生産が大腸菌細胞膜に及ぼす影響の違いを調べるため、ヒドロキシアーキオールコアを持ったアーキア膜脂質の生産系を構築した。既知酵素のホモログ遺伝子を多様なアーキアから単離し、アーキア膜脂質生産大腸菌に導入することで、異なる種のアーキアから水和反応を触媒すると予想される酵素遺伝子を見出した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
大腸菌におけるアーキア膜脂質の生産量が低いことが最大の課題であり、その改善のためにプラスミドによるメバロン酸経路の導入や培地成分の検討などの対処を行った。その結果、アーキア膜脂質の生産量を向上させることには成功したが、それでも大腸菌内在性の膜脂質と比べるとアーキア膜脂質の生産量は少なく、細胞膜の物性や大腸菌のフェノタイプへの影響を安定に観察できていない。特に、アーキア膜脂質の高生産状態が不安定であり、培養を繰り返すと生産量が低下することが大きな問題となっている。今後は導入するメバロン酸経路遺伝子をバクテリアやアーキア由来のものに変えたり、遺伝子導入の手法を再検討するといった対策が必要だと思われる。 また、ヒドロキシアーキオールコアを持つアーキア膜脂質の生合成遺伝子については、いずれも既知の構造の膜脂質を生産するアーキアに由来するものであり、したがって当初期待していたような、構造の異なるヒドロキシアーキオール脂質の生合成遺伝子は単離できていない。
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今後の研究の推進方策 |
大腸菌へのメバロン酸経路遺伝子群の導入を、プラスミドではなくゲノムへの相同組換えによって行い、アーキア膜脂質の安定した高生産を実現しようと考えている。大きな遺伝子断片のゲノムへの挿入は一般に難しいが、近年バクテリアのゲノム操作にも用いられるようになったCRISPR/Cas9システムによる実施例が報告されており、我々もこの手法を用いる予定である。酵母由来の遺伝子群と、バクテリア由来の遺伝子群それぞれの大腸菌ゲノムへの導入を予定している。 アーキア膜脂質の構造多様性の確保については、ヒドロキシアーキオールコアを持つ膜脂質以外にも、一般の膜脂質より炭化水素鎖が長いC25アーキオールコアを持つ膜脂質の生産を行おうと考えている。すでに一部生合成遺伝子の単離は行っており、今後既発表の方法と同様にして大腸菌における生産系を構築する。多様な構造のアーキア膜脂質を大腸菌において大量かつ安定に生産させることで、細胞膜の物性や大腸菌の表現系にどのような影響が出るかを多面的に観察していきたい。
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次年度使用額が生じた理由 |
当初平成28年度のスタートを予定していた研究内容である、細胞膜の物性評価や大腸菌の表現系の検討に至る前に問題が生じ、その解決に時間がかかっている。そのため予算の未消化分が生じ、平成29年度に繰り越されることとなった。
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次年度使用額の使用計画 |
繰り越した予算は当初平成28年度に予定していた膜の物性評価などの実験を平成29年度に開始するため、および新たに生じた課題である膜脂質の安定生産の実現を目的とした実験のために使用する。平成29年度分として請求した予算については、膜脂質の構造多様性の確保といった当初の予定通りの実験を実施するのに使用する。
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