研究課題/領域番号 |
16K14885
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
川本 純 京都大学, 化学研究所, 助教 (90511238)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 低温菌 / Outer membrane vesicle / 異種タンパク質生産 |
研究実績の概要 |
回遊性魚類の腸管より採取された低温適応細菌 Shewanella sp. HM13 は、菌体外にリン脂質二重膜で覆われた膜小胞を生産する。本菌が生産する菌体外膜小胞 (OMV) は、積み荷タンパク質として機能未知の膜タンパク質 P49 を高純度で内包している。グラム陰性細菌による OMV は、現在単離されている全ての菌株で確認されている普遍的な微生物機能であり、病原性因子の輸送や、バイオフィルム形成、遺伝子の水平伝播、宿主免疫の制御など多様な生理機能を担うことが知られているが、HM13 のように単一のタンパク質を内包する OMV の生産は報告例がない。本研究では、HM13 の OMV 生産の分子基盤に基づき、HM13 を宿主とした異種タンパク質分泌生産系の開発を目指している。HM13 における小胞分泌を介したタンパク質輸送機構の解明を目的とし、本菌の全ゲノム解析を行った。その結果は、P49 をコードする遺伝子領域が、複数のタンパク質輸送装置のホモログをコードする遺伝子群とクラスターを形成していることが明らかとなった。これら P49 の周辺遺伝子を破壊した変異株を作製し、P49 輸送能と OMV 生産能を解析した結果、P49 遺伝子に隣接するタンパク質輸送体の遺伝子破壊が、P49 の菌体外輸送を顕著に低下させた。一方で、本遺伝子破壊株は野生株と同程度の OMV を生産していたことから、本菌における P49 の菌体外輸送は、膜小胞形成とは独立した機構で進行することが示唆された。本輸送体を介した OMV へのタンパク質輸送機構は、外来遺伝子由来の異種タンパク質の分泌生産への応用が期待される。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度、本研究で対象とする膜小胞を介したタンパク質分泌生産能に秀でた低温適応細菌 Shewanella sp. Hm13 の全ゲノム解析と、部位特異的変異導入実験により、カーゴタンパク質の小胞輸送を担う輸送体の存在を明らかにすることに成功し、本機構の分子基盤の一端を明らかにした。本菌を宿主とし、膜小胞分泌を介した異種タンパク質生産系の構築には、本菌における P49 の分泌生産機構の理解が必須であり、本研究から見いだしたタンパク質輸送体を利用した異種タンパク質分泌生産用ベクターの構築が期待され、本研究課題の初年度の目標を達成していると言える。一方で、P49 に存在すると予想される小胞移行を担うシグナル配列の特定には至っていないこと、また、膜小胞の生産の分子基盤は依然として不明のままであることから、本研究は概ね順調に進展していると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
本年度、HM13 より P49 の OMV への移行を担う輸送体の同定に成功している。本輸送体を介した異種タンパク質の分泌生産系の構築を目的とし、P49 とベータラクタマーゼ、もしくは GFP を融合した変異型 P49 を発現するプラスミドを構築し、HM13 に導入する。融合タンパク質の OMV 画分への移行量を解析することで、異種タンパク質生産への応用可能性を評価する。同時に、アミノ酸残基数や疎水性度の異なるタンパク質との融合タンパク質を調製することで、効率的な OMV への輸送に関わる配列ドメインを明らかにする。併行して、HM13 が生産する OMV の膜脂質組成の制御を試みる。本菌に存在するリン脂質生合成遺伝子群に変異導入する。発現調節に関わる領域、もしくはホスファチジルコリン生合成酵素の導入など、極性頭部の組成に影響する遺伝子を形質導入し、OMV を構成するリン脂質組成への影響を解析する。多様なリン脂質で構成される OMV の調製は、多様な膜タンパク質の高生産に重要と考えられる。
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次年度使用額が生じた理由 |
本年度、HM13 の膜小胞を介した膜タンパク質分泌生産の分子基盤の解明を目的とし、P49 の周辺遺伝子群からP49 の OMV への移行を担うタンパク質輸送体の同定に成功した。一方で、当該タンパク質輸送体の遺伝子破壊は、OMV 生産には影響しなかったことから、HM13 の OMV 生産は P49 の OMV への移行とは独立した経路で進行することが示唆された。本菌の OMV 分泌を異種タンパク質生産に応用するためには、本菌における OMV 生産メカニズムの理解が必須である。リン脂質生合成遺伝子群の改変による OMV 生産レベルの増強や脂質組成の改変を次年度に執り行うために、翌年度分として請求した。
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次年度使用額の使用計画 |
HM13 のゲノム情報に基づき、リン脂質生合成遺伝子群の破壊株を作製する。これら遺伝子破壊株の OMV 生産量、および OMV を構成する膜脂質成分を解析することで、OMV 生産の分子基盤、特にリン脂質の移行に関する知見を得る。OMV の生産性、もしくは OMV を構成する脂質成分を任意に制御することで、多様な膜タンパク質生産に応用可能な OMV 生産性宿主細胞の獲得を目指す。
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