麹菌Aspergillus oryzaeでは、分子ツールが潤沢でないため遺伝子工学的な改変に多くの制限と多大な時間と労力を要する。一方で、A. oryzaeでは、染色体上に非相同的に組み込むコトランスフォーメーションによりマルチコピーで遺伝子導入が可能であることが経験的に知られている。本研究では、コトランスフォーメーションにおける染色体上遺伝子導入部位偏重を解析し、新しいマルチ遺伝子破壊法や多種類遺伝子の同時導入法開発を目指した。 平成29年度までに、導入遺伝子数の異なる多数の遺伝子組み換え麹菌を作出しており、当初予定していた次世代シーケンサ(超並列型ショートリードシーケンス)からロングリード解析が可能なナノポアシーケンサを用いた解析手法の確立に成功していた。 平成30年度は、このナノポアシーケンサを用いた解析技術を種々の形質転換体のゲノム解析に適応することで、コトランスフォーメーションによってマルチコピー導入された外来遺伝子のゲノム中での構造を詳細に解析することとした。また、導入遺伝子の末端配列を変更することでコピー数の多型性を生じさせた株間のゲノム構造を比較した。 複数株のゲノム構造解析の結果、コトランスフォーメーションでのマルチコピー導入では、ゲノム上の様々な位置に散在して導入されると予想されていたが、その予想とは全く異なり、ゲノム上のある場所に集約的に導入されるロングタンデムリピート構造になることを世界で初めて発見した。ゲノム上に導入される場所は、固定されておらず、ゲノム上でも外来遺伝子が入りやすいホットスポットのような場所が存在する可能性を考えていたが、形質転換体ごとに導入遺伝子部位は染色体レベルで異なり、かつ集約的に導入されることを明らかにした。
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