一部のBacillus属細菌は胞子形成期に培地中のケイ酸(Si[OH]4)を取り込み、その重合体であるシリカ(SiO2)を胞子殻上に蓄積する。シリカ層が形成された胞子は、酸に対する耐性が向上しており、胞子表面のシリカ層が酸に対する防壁として機能していると考えられた。一方で、発芽誘起物質(糖やアミノ酸など)の少なくとも一部を透過する性質を有しており、また、胞子発芽時にはシリカ層が脱落することが示唆された。つまり、本菌が形成するシリカ層は単なるガラス質のコーティングではなく、化学的耐久性と選択的透過性を併せ持ち、なおかつ能動的な分離が可能な多機能性の膜状構造体といえる。本研究では、多彩な機能を可能とする微細構造ならびに形成機構を明らかにし、それを模倣した機能性シリカ膜を形成することを目的とした。 平成28年度の研究において、本菌のシリカ層を単離することに成功した。また、得られたシリカ層をフッ化アンモニウム処理に供し、シリカを溶解することで、シリカ内部に存在する有機物を回収することに成功した。平成29年度の研究において、質量分析により本物質の同定を試みたところ、本物質は予想に反してタンパク質ではなく、アミノ基を多数有するポリマーであることが明らかとなった。本ポリマーの生合成経路を予想し、合成に関与すると予想される遺伝子を破壊したところ、本ポリマーを形成できない変異体を得ることに成功した。得られた変異体の胞子よりシリカ層を回収し、透過型電子顕微鏡を用いて微細構造の観察を行ったところ、シリカ層を構成する粒子状構造体の形状がわずかながら変化している様子が見られた。このことから、本ポリマーがシリカの性質に影響を与えている重要な物質である可能性が強く示唆された。
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