研究課題
申請者はこれまでに微生物のリン代謝について研究を進めてきた。その過程で、一部のバクテリアに還元された形態のリンを利用する能力が存在することに着目した。還元型リンは環境中には存在しないため、目的とする組換え体に還元型リンの資化能力を付与し、リン酸の利用能力を欠如させることができれば、その生物は環境中では生育することができない。すなわち生命の必須元素であるリンのコントロールによって組換え体の封じ込めが可能になると考えた。一方、様々な微生物のリン輸送体の解析を行っていたところ、このコンセプトを実現するために必要な性質と合致した機能を持つリン輸送体HtxBCDEを発見した。この輸送体と亜リン酸デヒドロゲナーゼ(PtxD)を大腸菌に発現させ、内在性のリン酸輸送体およびリン酸エステル輸送体の遺伝子を破壊したところ、完全に増殖を亜リン酸に依存するRN1008株を作製することに成功した。RN1008株の様々な培地における増殖を調べたところ、2xYT培地やその他のいかなる培地においても、増殖を示さないことが明らかになった。さらに、逃避確率(封じ込めから逃れる確率)は10-13以下であり、当初の目的であった米国国立衛生研究所(NIH)の基準である10-8を大きく下回った。つまり、本手法による封じ込め効果は極めて高く、当初予想した以上の結果が得られた。
1: 当初の計画以上に進展している
初年度で、予定していたリンの代謝経路改変による封じ込め手法のコンセプトを実現でき、その評価も終了した。さらに、本手法の封じ込め効果は当初の予想を上回るものであった。
リン酸、亜リン酸、次亜リン酸の構造は類似性があるにもかかわらず、リン酸がHtxBCDを透過できないのは、結合タンパク質による基質認識の違いに起因すると考えられる。そこで、3つのリン輸送体のBPであるPstS、PtxB、HtxBの組換えタンパク質を作製し、リン酸、亜リン酸、次亜リン酸との結合をリンの結合実験により調べる。また、作製した封じ込め株E. coli RN1008は、亜リン酸が存在しても複合培地に対する感受性を示すことが明らかになっており、その原因を解明する。さらに、この感受性をサプレッスする変異株からは、逃避変異株の出現が確認されており、その逃避メカニズムの解明を行う。
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Scientific Reports
巻: 7 ページ: 44738
doi:10.1038/srep44748
化学と生物
巻: in press ページ: in press
http://www.jst.go.jp/pr/announce/20170320/index.html
https://www.hiroshima-u.ac.jp/news/38638