研究課題/領域番号 |
16K14894
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研究機関 | 崇城大学 |
研究代表者 |
原島 俊 崇城大学, 生物生命学部, 教授 (70116086)
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研究分担者 |
浴野 圭輔 崇城大学, 生物生命学部, 准教授 (30310030)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 酵母 / 育種学 / 応用微生物学 / 接合型 / バイオテクノロジー / 倍数性 |
研究実績の概要 |
倍数性がどのような仕組みで制御されているかは現代生命科学の重要な課題のひとつである.一方、いくつかの産業用生物、特に産業酵母は高次倍数体であることが知られており、倍数性はバイオテクノロジーの観点からも興味ある課題である.高次倍数性の生理的な意味を正確に解析するためには同一遺伝背景の倍数体が必要である.我々は以前の研究で「形質転換付随融合法」と命名した育種技術によって、同質遺伝背景を持つ1~4倍体の酵母倍数体シリーズを構築した.しかしさらに高次の倍数体酵母を育種する技術は開発されていない. 酵母にはa、αと呼ばれる2つの接合型があり、a、α細胞を接合させると非接合性となる.しかし当研究室では、a型細胞と接合させた時生成した2倍体細胞にα接合型を付与する特殊な変異(matα2-102)を分離した.このmatα2-102変異を利用すれば、a型一倍体株から次々と交雑を繰り返すことにより、同質遺伝背景の”超”高次倍数体シリーズを作成できると期待される.この可能性を検証するため、matα2-102 変異遺伝子をクローン化して酵母ベクターに連結し、以前に形質転換付随細胞融合法と呼ぶ方法で作成した1倍体(a)、2倍体(a/a)、3倍体(a/a/a)、4倍体(a/a/a/a) 型細胞に導入したところ、期待通り形質転換体はα型を示した.そこでこの技術により、さらに高次の倍数体を育種するため、α型を示すa/a/a/a [matα2-102 + LEU2]型4倍体細胞と、もとのa型を示す4倍体a/a/a/a型細胞にセルレニン耐性遺伝子PDR4を導入したものとを接合させ、Leu非要求性 Cer耐性クローンを選択ことにより、8倍体a/a/a/a/a/a/a/a [matα2-102 + LEU2][PDR4]型細胞を育種することができた.この8倍体は世界で初めての酵母の同質遺伝背景を持つ8倍体である.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
matα2-102変異を利用すれば、これを導入したa型細胞がα型に変換されるので、これと、もとのa型細胞を繰り返し交雑することによって、理論的には無限に高次の倍数体を造成することができると想定した.この仮説が正しいかどうか、また、どこまで高次倍数体を造成できるかという、これまでに設定されたことのない生命科学の基本的な課題のひとつを明らかにすることを目的として、本申請課題は始められた.また、これに加えて、超高次倍数体が造成できれば、そのバイオテクノロジーにおける有用性を検証するのも、本研究の目的のひとつである.この目的に対し、少なくとも8倍体、しかも、これまで育種されたことのなかった同質遺伝背景を持つ8倍体酵母細胞を造成することができたことは、研究計画以上の進展と考えている.さらに、8倍体をもとに、16倍体を造成する道が開けたことは、当初の予想を上回る進展であると言ってもよいと自負している
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今後の研究の推進方策 |
本年度(1年目)の研究において、matα2-102変異を利用して世界で初めて同質遺伝背景を持つ8倍体細胞(a/a/a/a/a/a/a/a [matα2-102 + LEU2][PDR4:セルレニン耐性])(Leu非要求性、セルレニン耐性でα型を示す)を造成することができた.次に挑戦することは、当然ながら、この8倍体を利用して、これまで誰も育種したことの無い同質遺伝背景の16倍体を造成することである.これを達成するため、この8倍体から、matα2-102遺伝子が脱落した細胞(a型でロイシン要求性でセルレニン耐性)と、PDR4遺伝子が脱落した細胞 (α型でLeu非要求性でセルレニン感受性)を取得し、これらの細胞を交雑することによって、Leu非要求性、セルレニン耐性を示す細胞として16倍体を取得する計画である.一方、このことに関連して、a型細胞の倍数性が上昇するにつれ、matα2-102変異が、a型細胞をα型に変換する機能が低下していることが、α接合能の低下から示唆された.この現象が正しいのであれば、16倍体を育種する障害となり得る可能性もあろう.もしそうであれば、これをどのようにして解決するが課題である.また、造成した”超”高次倍数体の倍数性が安定に維持されるかどうかも調べる必要があろう.さらに、野生型MATα2タンパは、MATa1タンパクと複合体を作ることがわかっているが、matα2-102 タンパクがMATa1タンパクと複合体を形成するかどうかはわかっていない.matα2-102変異による ”超”高次倍数体の育種技術の開発には、こうした知見も得る必要があると考えている.
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次年度使用額が生じた理由 |
年度末に利用する予定であった"超"高次倍数体を利用した突然変異株分離に使う連続培養装置の一部の部品が入手困難となったため.
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次年度使用額の使用計画 |
"超"高次倍数体を利用した突然変異株分離に使う連続培養装置の部品で未購入の部品を購入する予定である.
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