本研究では、産業酵母の倍数性、異数性と、その有用形質との関連を明らかにするため、特異な接合型変異(後述)を利用して、簡便に同質遺伝背景の倍数体を造成する新しい育種技術の開発を目的とした。酵母はMATaおよびMATα遺伝子に支配されるa、αの接合型を持ち、接合させると非接合性となる。しかし以前の研究でa型細胞と交雑させた時、生成した2倍体にα接合能を付与する特異な変異matα2-102を分離した。この変異を利用すればa型細胞と無限回の交雑が可能と考えられ、“超”高次倍数体を造成できるのはないかと考えた。そこで、この変異をベクターに乗せa型1~4倍体株dcに導入したところ、予想通り形質転換体は全てα型を示した。しかし、そのα接合能付与の強さは1倍体、2倍体では十分強いように見えたが、3倍体、4倍体と倍数性が高くなるにつれ弱まった。そこで、効率よく“超”高次倍数体を作成するため、2倍体(a/a[matα2-102])を基準株とし、a型株に次々と交雑することにした。この方式で、昨年までに同質遺伝背景の8倍体(a/a/a/a/a/a/a/a[ matα2-102])を造成することができた。これまで、交雑体は α型細胞にLEU2遺伝子選択符号を持たせ、a型細胞にはセルレニン耐性遺伝子(PDR4)を持たせて、Leu+ Cer耐性株として取得していた。しかし、この方式では倍数性が上昇するにつれ交雑体の取得が困難になった。倍数性が高くなるにつれPDR4がセルレニン耐性を付与できなくなることが想定されたので、セルレニン耐性の代わりに呼吸欠損表現型(Rho-)を用いることにした。交雑体は、Leu+ Rho+ で選択するため、2倍体基準株からRho-クローンを誘導し、この2倍体基準株を用いることにより、10倍体を造成することができた。今後、どこまで“超”高次倍数体が造成できるかを明らかにする。
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