我々のグループは固体である金属鉄中の自由電子を唯一のエネルギー源とし、二酸化炭素から酢酸を生成することで生育可能な新規微生物を単離し、この代謝が無酸素環境下での鉄の腐食(いわゆる“さび”)を促進することを報告した。しかしこの微生物がいかにして細胞の外にある金属鉄から電子を受け取っているのか、その分子機構は不明であった。そこで本研究では申請者らが単離した鉄腐食・酢酸生成細菌、および近縁の酢酸生成菌をを対象とした培養実験および比較ゲノム解析などを通して、 金属鉄との電子授受に基づくエネルギー代謝の分子機構を解明することを目的とした。 我々のグループで単離した鉄腐食・酢酸生成細菌(Sporomusa sp. GT1株)および近縁の酢酸生成菌の鉄腐食能を比較した結果、Sporomusa属のいくつかの株は鉄腐食能を示したものの、Acetobacterium属やMoorella属の酢酸生成菌では明確な鉄腐食活性がみられなかった。 本研究で扱った4種類の菌を含む複数種の酢酸生成菌のドラフトゲノムを決定し、すでに解析されている酢酸生成菌のゲノムも加えた比較ゲノム解析を行った。直接的な細胞外電子伝達に重要であると考えられているマルチヘム型のc-type cytochromeの遺伝子の存在をヘム結合モチーフ (CXXCH)をクエリー配列として検索した結果、本研究で鉄還元能が示された3種のSporomusaゲノムには、複数のヘム結合モチーフがあるタンパク質、例えばc-type cytochromeがいくつか検出されたが、既存のモデル鉄還元菌がもつようなdecaheme型のc-type cytochromeは検出されなかった。以上から、酢酸生成菌における鉄腐食ではdecaheme型のc-type cytochrome非依存的な機構が機能している可能性が示唆された(論文投稿準備中)。
|