本研究では黄色ブドウ球菌の2成分性βバレル膜孔形成毒素が備えている、リング状前駆体形成、prestemのリリース、βバレルの二段階伸展と細胞膜への挿入からなる細胞特異的膜孔形成能力の分子機構を追求した。 【S型成分の標的細胞膜認識に関わる分子内因子の同定】γヘモリジンのHlg2成分、LukEDのLukE成分が膜孔形成時に標的細胞と接する4つのループ構造に注目した。これらを赤血球を認識できないロイコシジンLukS-PVのの該当部位と置換した変異体の解析から、いずれの成分でもLoop4が赤血球認識に重要で、Loop1と2がそれを補助することを明らかにした。この成果はJ. Biochemistryに報告した。 【モノマーでのprestem の保持および標的膜上でのリリースに関わる分子内因子の解析】γヘモリジンのLukF及びHlg2成分において、stemのTyr(実験1のαヘモリジンY118の相当)との水素結合によってprestemを保持するcap領域のAsp残基に注目した。これらのAspは膜孔形成時には隣接する成分のcap部位の塩基性アミノ酸とイオン結合を形成する。そこでこれら塩基性アミノ酸の変異体を解析した結果、Hlg2成分のK15及びR16がLukF成分のprestemリリースに関与することを明らかにした。この成果は学会で発表するとともにToxiconに投稿し、現在査読結果を受け追加実験を行い、改定稿を作成中である。 【βバレル膜孔が形成するために必須な分子内因子の探索】近縁の1成分性膜孔毒素タンパク質であるαヘモリジンを用いた。stem 領域に変異を入れるとprestemの保持に影響が出た。そこでcapドメインとstemにCysを導入してprestemの開放を調節できる評価系を構築した。この評価系を用い、膜孔形成に影響するstem 領域の残基を絞り込んだ。詳細は現在解析中である。
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