植物は多様な代謝物を根から土壌中に放出し、その量は光合成産物の10~40%を占める。根から分泌される代謝物の中にはダイズのフラボノイドのように根圏での生物間コミュニケーションのシグナル分子として機能するものも多く知られている。ヒトにとって最も身近な植物二次代謝産物の一つであるカフェインは根圏へも分泌される。しかし、植物がなぜカフェインを根圏に分泌するのかについては明らかにされていない。私たちのグループでは、in vitroの実験によりカフェインがTricoderma属菌の抗菌効果を向上させることを明らかにし(Sugiyama et al. 2016 Plant Signal. Behav.)、カフェインが根圏での生物間相互作用を制御する可能性に着目した。本研究ではコーヒーノキから単離したカフェイン生合成系の遺伝子を導入し、カフェインを合成する形質転換トマトを作出した。形質転換トマトを用いて蓄積量と分泌量を解析するとともに、根圏微生物への影響を単離菌株を用いて解析した。単離菌株はコーヒーノキ根圏から得られた細菌である。本研究で得られた単離菌株にはカフェイン代謝活性を有するものは見いだされなかったが、コーヒーノキ病原菌に対して拮抗阻害を示す菌株が見いだされた。またコーヒーノキ幼植物体を用いてカフェイン分泌の解析を行うとともに、ゲノム解析と遺伝子発現解析によりカフェイン輸送体の候補遺伝子から、カフェイン輸送活性が示唆される遺伝子を複数見出した。
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