研究課題/領域番号 |
16K14903
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
高山 誠司 東京大学, 大学院農学生命科学研究科(農学部), 教授 (70273836)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 植物 / 遺伝子 / 発生 / 生殖 / ゲノムインプリンティング / 胚乳 |
研究実績の概要 |
種子の胚乳発達を制御する父性ゲノムインプリント遺伝子の同定を目的として以下の探索を実施した。 1) 母性インプリント遺伝子とのコンフリクトに着目した解析 シロイヌナズナ野生系統株の種子サイズは比較的揃っているにも関わらず、系統間の交雑により得られるF1種子のサイズには大きな差異が認められる。今年度はCol-0系統の雌ずいに各種野生系統株の花粉を受粉させて得たF1種子サイズを計測することで、胚乳発達に影響を及ぼす父性ゲノム遺伝子座の絞り込みを行った。なお、本研究開始時までに、種子サイズは植物体の大きさや、鞘当りの種子数に大きく依存することが判明していたため、蛍光標識したCol-0花粉を内標として野生系統株の花粉と同時に受粉して自殖種子との対比によりF1種子サイズを評価するなど、父方ゲノムの効果を的確に抽出しうる計測法の確立を徹底して行った。4倍体の雌ずいを用いると、鞘当りの種子数の影響が抑制されることも見出した。また実際のGWAS解析により、種子サイズに有意に影響を与える父方ゲノム遺伝子座を一つ見出すことに成功した。 2) DNAメチル化による発現制御に着目した解析 胚乳における父性インプリント遺伝子の選択的発現には、父性ゲノムのDNAメチル化の維持が重要である可能性が示唆されてきている。そこで、今年度は、まず花粉におけるDNAメチル化維持に重要であることが示されているMET1遺伝子の変異体を用い、花粉において発現量が低下している遺伝子群を網羅的に探索した。この解析により同定された遺伝子群の中には、胚乳発達との生理的関係は未解明ながら既知の父性インプリント遺伝子群が多数含まれていたことから、本情報が目的遺伝子の探索に有効であることが示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究は、2つの異なる方向性から胚乳発達を制御する父性ゲノムインプリント遺伝子の同定を目指すものであるが、いずれも概ね予定通り進展している。ただし、1)の母性インプリント遺伝子とのコンフリクトに着目した解析では、父方ゲノムの多様性以外の要因を排除した測定系の確立にかなりの時間を要した。ようやく優れた測定系が確立できたので、解析対象株数を増やした本格的なGWAS解析は平成29年度前半に一気に進める計画である。
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今後の研究の推進方策 |
1) 母性インプリント遺伝子とのコンフリクトに着目した解析 確立した雑種種子サイズ計測系を用い、本格的なGWAS解析を実施し、種子サイズに影響を及ぼす父方インプリント遺伝子座の特定を行う。本解析により相関が有意と判定された遺伝子座については、SNPsと表現型の関連解析により候補遺伝子の特定を行う。 2) DNAメチル化による発現制御に着目した解析 抽出されてきた候補遺伝子について、met1変異株での発現低下と胚乳における父性特異的発現を指標として候補遺伝子の絞り込みを行う。 上記いずれの方向性においても、胚乳における父性特異的発現、ゲノムのメチル化状態の確認、胚乳発達における機能証明が、目的とする父性ゲノムインプリント遺伝子同定の鍵を握る。
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次年度使用額が生じた理由 |
偽陽性シグナルの検出を抑制するために、種子サイズの計測法の改善が必須であり、かなりの時間と労力をかけた。このため、高額な経費がかかる本格的GWAS解析や候補遺伝子の同定作業が平成29年度にずれ込む予定となったため。
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次年度使用額の使用計画 |
1) 解析対象数を増やしての本格的な全ゲノム関連解析は平成29年度前半で一気に進める計画である。また、有意性が示された候補遺伝子座については、原因遺伝子の特定のための父性特異的発現解析、メチル化解析、タグライン等を用いた機能解析等を順次進める計画であり、次年度使用額の大半は、こうした解析のための消耗品費に充てる計画である。
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