胚乳発達を制御する父性インプリント遺伝子の同定を目的として、研究実施計画に掲げた以下の2つの方向から探索を進め、候補遺伝子を同定した。 1.母性インプリント遺伝子とのコンフリクトに着目した解析 シロイヌナズナ野生系統株間で交雑して得られる種子のサイズの多様性に着目したゲノムワイド関連解析(GWAS)を行った。母方系統Col-0の雌ずいに対し、計165の野生系統の花粉を受粉させ、得られた種子のサイズを画像処理により計測し、GWASに供した。なお、種子サイズが母方系統の生育状態や、一さや当たりの種子数などの要因により大きく影響を受けることが判明したため、父方系統の花粉を受粉させる際に蛍光標識した母方系統の花粉も同時に受粉し、さやの中で蛍光標識された自殖種子を内部標準として雑種の種子サイズを相対値として求める処理を行った。解析の結果、種子サイズに影響を与える複数の遺伝子座が同定されると共に、当該領域に複数の父性インプリント遺伝子の存在が確認された。 2.DNAメチル化による発現制御に着目した解析 胚乳における父性インプリント遺伝子の選択的発現には、父性ゲノムのDNAメチル化の維持が重要であることが示唆されている。そこで、DNAメチル化に関わる遺伝子の変異株の花粉のトランスクリプトーム解析から発現が有意に低下している遺伝子を抽出したところ、多くの父方インプリント遺伝子が同定された。さらに、ゲノムの特定領域が低メチル化した自殖系統(epiRIL)を父方に用いることで、種子サイズに影響を与えるDNAメチル化領域を絞り込むことができた。
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