研究実績の概要 |
理論円二色性スペクトルをもちい、新規物質cyclohelminthol X及びY1-Y4, neomacropholin X, roridin J及び12-deoxyroridin Jの構造決定を行った。これら化合物においては一般に汎関数としてBHLYPが実験スペクトル再現に優れていることが判明した。基底関数としてdef2-TZVPが優れていたが、これら化合物のスペクトル再現においてはdef2-SVPでも十分な品質であることが判明、配座自由度の高い天然物では計算速度を優先してdef2-SVPを採用し、より多くの配座を探索したほうがより正確になる場合が有ることが判明した。構造が複雑なcyclohelminthol Y1-Y4において得られた理論スペクトルはほぼ満足できるものの、いくつかの波長で一致が十分とはいえないものであった。これは、構造再現において、溶媒の効果など計算では考慮できない項目の影響であろうと考えている。neomacrophorin Xでは測定溶媒によりスペクトルが大きく変化したが、これを計算により再現することに成功、本手法は天然有機化合物の絶対配置のみならず相対配置決定にも応用できることを実証した。 roridin Jの円二色性スペクトルでは、マクロリド部分の二つの発色団のキラルな捩れがECDスペクトルを支配していることが判明した。12-deoxyroridin Jでは、200 nm付近に特徴的コットン効果が見られたが、仮想的モデルを含めた計算により、真空紫外領域(180 nm)のに現れる孤立二重結合間の励起子分裂の一部を観測していることを明らかにすると同時に、計算を活用することにより円二色性スペクトルの要因帰属に有用であることを明らかにした。
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