研究課題/領域番号 |
16K14912
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研究機関 | 静岡大学 |
研究代表者 |
崔 宰熏 静岡大学, 農学部, 助教 (40731633)
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研究分担者 |
道羅 英夫 静岡大学, 理学部, 准教授 (10311705)
河岸 洋和 静岡大学, グリーン科学技術研究所, 教授 (70183283)
朴 龍洙 静岡大学, グリーン科学技術研究所, 教授 (90238246)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | サナギタケ / 機能性物質 / ゲノム解析 |
研究実績の概要 |
冬虫夏草とは、菌が昆虫などに感染し、最終的に昆虫体内から子実体(所謂キノコ)が発生するものの総称である。漢方では抗癌剤などとして古くから用いられてきたが、感染メカニズムは未だ明らかになっていない。サナギタケCordyceps militarisは鱗翅目昆虫に寄生する子嚢菌であり、その子実体は漢方薬として有用であるが、その感染や子実体形成の分子機構には不明な点が多い。その理由の1つとして、子実体は有性生殖過程において胞子を形成する構造体であり、その形成は相補的な交配型(α型とHMG型)の相互作用によるものであることが予想されるにもかかわらず、現在ゲノムシーケンスが行われているのはα型のみであることが考えられる。そこで、本研究ではα型とHMG型のドラフトゲノム配列を決定し、比較ゲノム解析を行った。さらに、これらのゲノム配列をリファレンスとして単相と異核共存体における遺伝子発現差解析を行った。このように、本研究はサナギタケの感染や子実体形成などの生命現象の解明に有用なゲノム情報を整備するとともに、相補的な交配型における遺伝子発現調節機構を明らかにし、感染や子実体形成の分子機構を解明することを目的としている。また、サナギタケCordyceps militarisから機能性物質の単離に成功し、がん細胞に対する細胞毒性活性を示した。現在、さらなる機能性物質を単離を試みている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
サナギタケNBRC100741株とNBRC103759株から分生子形成を誘導し、クローニングすることによって相補的な接合型(α型とHMG型)の株を単離した。これら4株のゲノムをMiSeqによってシーケンスし、ドラフトゲノム配列を決定した。これらのドラフトゲノムの比較ゲノム解析として、MAT染色体(交配型遺伝子座が存在する染色体)の構造比較、SNP解析、交配型特異的な遺伝子の探索を行った。さらに、103759株については、ドラフトゲノムをリファレンスとして、α型、HMG型をそれぞれ単独でカイコ蛹に接種した場合とα型とHMG型を混合して異核共存体とした状態での遺伝子発現差解析を行った。その結果、異核共存体で複数のプロテアーゼやキチン脱アセチル化酵素の遺伝子発現が上昇していることが明らかになり、これらの酵素が子実体形成に関与していることが示唆された。また、サナギタケCordyceps militarisから機能性物質の単離に成功し、がん細胞に対する細胞毒性活性を示し、その結果を論文にした。
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今後の研究の推進方策 |
交配型間の比較ゲノム解析では、特にMAT染色体の比較が重要になると考えられる。現在のところ、MiSeqで決定したドラフトゲノム配列では、MAT染色体を1本につなげることはできなかった。そこで、PacBioの超ロングリードシーケンスを行い、MiSeqのデータとともにハイブリッドアセンブリを行うことにより、MAT染色体を1本につなげ、さらに詳細な比較ゲノム解析を行う予定である。さらに、異核共存体で遺伝子発現が上昇している遺伝子について、交配型間のSNPの有無によって発現パターンが異なる傾向があることから、これらのSNPによる発現調節機構の解明を試みる。さらに、これらの遺伝子の機能解析を行い、子実体形成との関連を明らかにする予定である。現在、子実体からさらなる機能性物質を単離を試みている。
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次年度使用額が生じた理由 |
研究を進めていく上で必要に応じて研究費を執行したため当初の見込み額と執行額は 異なったが、研究計画に変更はなく、前年度の研究費も含め、当初予定通りの計画を進め ていく。
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次年度使用額の使用計画 |
今年度にはトランスクリプトーム解析から得られた結果を比較し、選抜された遺伝子・タンパク質は各個Real-time PCR等で定量的な比較を行う予定である。学会でもその成果を発表する予定である。
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