研究課題/領域番号 |
16K14916
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研究機関 | 広島大学 |
研究代表者 |
国吉 久人 広島大学, 生物圏科学研究科, 准教授 (60335643)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | ミズクラゲ / 変態 / インドール酢酸 / 生合成 |
研究実績の概要 |
IAA生合成酵素群の候補遺伝子、Aromatic L-amino acid decarboxylase (AADC)、Monoamine oxidase (MAO)、Aldehyde dehydrogenase (ALDH)についてクローニングを進めた。先のトランスクリプトーム解析およびlocal BLASTによって、AADCでは2種、MAOでは1種、ALDHでは4種の相同遺伝子が存在することが判明した。これらの中で、部分配列しか得られていなかった遺伝子については、end-to-end PCRによる全長cDNAのクローニングをおこなった。これら全遺伝子の塩基配列をおこない、分子系統解析をおこなった結果、2種のAADC相同遺伝子(Unigene8596、Unigene12993)のうち、Unigene12993がAADCのオーソログと考えられることが判明した。さらに、RT-PCRによる発現解析の結果、ALDH(Unigene4358)の1種のみがストロビラ特異的に発現し、それ以外はポリプ、ストロビラ両方で発現していた。 Tryptamine (TAM)の曝露実験に先駆け、TAMのポリプ化活性物質の条件検討をおこなった。低温処理(10℃培養)によりストロビラへの変態を誘導した後にTAM(50μM)を投与し、引き続き10℃で培養した結果、100%のストロビラで異所性触手が生じ、ポリプ化活性が確認された。一方、投与後に25℃培養した場合には、約50%のストロビラでポリプ化活性が確認されたものの、残りのストロビラでは正常に変態が進んでエフィラを放出した。また、変態誘導物質である5-methoxy-2-methylindoleで変態を誘導した後に投与した場合(25℃培養)には、ポリプ化活性は観察されなかった。以上の結果から、TAMによるポリプ化活性は温度依存的であることが示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
研究実施計画で予定していたLC-MS/MSを用いたIAA関連物質(TAM, IAAなど)の分析系の確立については、現在までに良好な結果が得られていない。したがって、内在性のIAAとその生合成中間体の分析には至っていない。 研究実施計画では、ミズクラゲのIAA生合成経路を構成すると考えられる酵素について、培養細胞による発現系を用いて酵素タンパクを調製し、それぞれの活性を確認する予定であった。これら酵素遺伝子について培養細胞発現用ベクターを構築し、HEK293による発現を試みたが、十分量のタンパク発現が認められなかったため、酵素活性の測定には至らなかった。
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今後の研究の推進方策 |
【Exp.1】「LC-MS/MSを用いたIAA関連物質(TAM, IAAなど)の分析」については、LC-MS/MSを用いたIAA関連物質の分析系の確立を達成したい。具体的には、広島大学共通機器のACQUITY UPLC-TQD (Waters)を使用して、プレカーサーイオンスキャン法による内在性インドール物質の網羅的検出を試みる。実験に当たっては、本機種でのプレカーサーイオンスキャン法による分析経験がある矢中規之博士(研究協力者)のサポートを得ながら進める予定である。 【Exp.2】「IAA生合成酵素群の酵素活性測定」については、培養細胞によるタンパク発現系に変えて、大腸菌を用いた発現系を用いて酵素タンパクの調製を試み、酵素活性測定を進めていきたい。 【Exp.3】「IAA生合成酵素群の発現解析」については、組織染色に用いるための抗体作成に取り掛かると同時に、ポリプ・ストロビラの切片作成と一般染色を進め、組織学的な基礎データを蓄積したい。また、【Exp.4】「ポリプ化活性物質TAMの曝露実験」については、TAMの投与条件(濃度、投与時期など)を検討した後、曝露実験に取りかかりたい。
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次年度使用額が生じた理由 |
H29年度中の計画に含まれていた【Exp.1】「LC-MS/MSを用いたIAA関連物質(TAM, IAAなど)の分析」については、予備実験で良好な結果が得られなかったため、内在性IAA関連物質の定量に至らなかった。内在性IAA関連物質の定量には重水素ラベルした合成品を購入する予定であるが、その分の必要経費は未使用のままであるため、H30年度に繰り越した。また、【Exp.3】「IAA生合成酵素群の発現解析」については、組織染色に必要経費分は未使用のままであるため、H30年度に繰り越した。同じく、【Exp.4】「ポリプ化活性物質TAMの曝露実験」の必要経費分も未使用のままであるため、H30年度に繰り越した。 【Exp.1】「LC-MS/MSを用いたIAA関連物質の分析」については、消耗品、試薬類(重水素ラベル化試薬など)の経費として使用する。【Exp.2】「IAA生合成酵素群の酵素活性測定」については、大腸菌発現用の培地、消耗品、試薬類の経費として使用する。【Exp.3】「IAA生合成酵素群の発現解析」については、組織染色に用いる消耗品、試薬類、抗体作成委託の経費として使用する。それに加えて、【Exp.4】「ポリプ化活性物質TAMの曝露実験」のための飼育用器具類・飼料、消耗品、試薬類の経費として使用する。
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