研究課題/領域番号 |
16K14917
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
石塚 敏 北海道大学, 農学研究院, 准教授 (00271627)
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研究分担者 |
清水 英寿 島根大学, 生物資源科学部, 准教授 (10547532)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 胆汁酸 |
研究実績の概要 |
高脂肪食の摂取により胆汁酸分泌が増大し、肝臓で合成される一次胆汁酸は加齢によりコール酸(CA)に偏る。加齢に伴う高脂肪食摂取で増加する状態をCA添加食で模倣してラットに与えると、炎症や繊維化をともなわない非肥満型の単純性脂肪肝及び血圧上昇などの病態を惹起することを見出した。この時、各組織や血液中の胆汁酸分子種をLC-MSを用いて測定すると、既知の胆汁酸分子種以外にも幾つかの未知ピークが観察される。そこで、胆汁酸代謝に関わると考えられるこれらの化合物を同定し、CA誘導性病態発症におけるそれらの化合物の関与を明らかにする。さらに、加齢ラットに高脂肪食を摂取させた場合に当該臓器あるいは体液に含まれるかを検証し、脂肪肝等の生活習慣病発症における寄与を検証する。 我々はこれまでに、臓器中や体液、消化管内容物、糞等の抽出液に含まれる約30種の胆汁酸分子種について、LC-MSを用いて精密分析する方法を確立した。その分析法を用いてCA摂取ラットの胆汁酸代謝を解析する過程で、胆汁酸の抽出条件で未同定化合物が多数存在すること、その中の一部の分子種はCA食摂取で著増することを見出している。CA誘導性脂肪肝及び関連病態の発症に深く関与する可能性が考えられるこれらの化合物を質量分析等の機器分析により同定し、関連病態の発症に及ぼす作用を細胞・組織レベルで検証し、加齢に伴う高脂肪食摂取での当該化合物の存在を併せてin vivoで検証する。 CAにより誘導される脂肪肝・関連病態は、加齢や高脂肪食による胆汁酸環境を模倣した現実的な病態モデルと考えられる。本研究で新たな胆汁酸関連化合物が見出されれば、診断・予防のための新規バイオマーカーとしての利用が想定され、胆汁酸代謝を指標とした新たな機能性を有する創出・食品開発の端緒となると期待される。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
CA摂取ラットの各種臓器・体液・消化管内容物・糞等を用い、LC-MSを用いた胆汁酸分析の際に増加する低分子化合物で比較的濃度の高い未同定化合物の同定を目指し研究を行った。生体試料からのエタノールを用いて胆汁酸関連分子を抽出したものを固相抽出する方法を用いた。胆汁酸はカルボン酸を持つためイオン化により陰イオンとして検出される特徴を持つため、質量分析としては分子量300-1000を胆汁酸と同様のネガティブモードで検出している[Hagio, Ishizuka et al. J Lipid Res 2009; Hagio, Ishizuka et al. Methods Mol Biol 2011]。CA摂取ラット糞の胆汁酸解析を実施した際に、分子量300-1000のみ同定化合物がCA摂取群でより多く観察された。われわれが通常解析している30種の胆汁酸分子種以外にも、硫酸、グルクロン酸、N-アセチルグルコサミン、グルコシド、アシルグルコシド等の多様な抱合型胆汁酸の存在が報告されている。糞抽出液を用いた予備的検討では、既知胆汁酸の硫酸抱合体と想定される分子量でスキャンすると、複数のピークが検出された。現在これらの分子種の同定を進めている。
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今後の研究の推進方策 |
目的分子の質量を小数点以下4桁まで測定し、数ppmの誤差範囲で精密質量を測定可能な四重極/Orbitrapバイブリッド型の質量分析計を搭載したLC-MSを有しており、推定される組成式から同位体の存在頻度を勘案し、その組成式の検証が可能である。この装置を用いて、上記各種抱合体や想定される官能基の組成式から精密質量と同位体比を算出し、CA摂取で多量に観察される分子種を探索する。また、これまで定量可能な胆汁酸分子種については、それぞれMS-MSによる開裂パターンを取得しているため、この情報をもとに分子種を特定する。これらの未同定化合物のMS-MSによる開裂パターンをもとに、データベースと照合することで当該化合物の同定を目指す。また、標品が得られる場合には、それを用いてLC-MSを用いた定量メソッドを確立し、体内での臓器分布とその代謝を明らかにする。また、CA摂取ラットで増加する胆汁酸関連化合物が同定された場合、CAで見られる各種異常に関わるパラメータと当該化合物の濃度を基に、相関解析や重回帰分析を駆使して、in vivoにおける当該化合物の病態発症における寄与を評価する。
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次年度使用額が生じた理由 |
胆汁酸負荷状態で変動する生体試料中の未知化合物の把握及び解析に時間を要しており、その後の代謝解析や作用評価を実施する段階に到達していないため、次年度の使用額が生じた。
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次年度使用額の使用計画 |
未知化合物が同定され次第、その代謝解析や作用評価を実施する為に使用する。
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