研究課題/領域番号 |
16K14922
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研究機関 | お茶の水女子大学 |
研究代表者 |
飯田 薫子 お茶の水女子大学, 基幹研究院, 教授 (50375458)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 食後高血糖 / アミラーゼ / 消化酵素 / 小腸 |
研究実績の概要 |
近年、糖尿病の蔓延が社会的な問題となっており、その合併症の予防には食後高血糖のコントロールが不可欠である。本研究では新たな食後高血糖コントロール戦略の確立のために、糖質分解酵素である膵α-アミラーゼ(Pancreatic α-amylase:PA)とスクラーゼ・イソマルターゼ(Sucrase-Isomaltase:SI)による糖質分解機構に着目した。食事由来の炭水化物は小腸腔内でPAによって二糖類に分解されたのち、小腸粘膜上皮のSIにより単糖に分解され血中に吸収される。近年、PAがSIの糖鎖を介して結合し、その活性を促進する現象が試験管レベルで報告されているが、実際に生体内において同様の現象が生じるかは明らかでない。そこで本年度は、生体におけるPAとSIの相互作用について検討した。 まずマウス小腸を用いてPAとSIの免疫二重染色法の確立を行い、小腸における両者の局在について検討を行った。次いで摂食、絶食の条件下での両者の局在について比較検討を行った。また、小腸上皮細胞様に分化させたCaco-2細胞を用い、PAがCaco-2細胞におけるSIのマルトース分解活性に与える影響ついて検討を行った。この結果、免疫二重染色では、摂食下マウス小腸でPAとSIが共局在することが明らかとなった。この共局在は刷子縁において観察され、特に胃直下3cm付近の部位において局在が強く認められた。また摂食下と比べ程度は弱いものの、絶食下においてもPAとSIの共局在が刷子縁で観察された。一方、細胞を用いた検討では、培養上清にPAを添加することによりCaco-2細胞におけるSIのマルトース分解活性が増強することが示された。 以上の結果より、生体内においてもPAがSIに結合し、SIのマルトース分解活性を増強する可能性が示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は組織学的手法を用い、PAとSIが小腸刷子縁において共局在することを明らかとし、生体内においても両者が直接結合する可能性を示した。また、培養細胞を用いた検討においてはPAがSIの活性を制御する可能性を示した。 本研究の目的は、既存の In vitroの報告で認められているような、糖鎖を介したPAとSIの結合および相互作用について生体内での再現性を検討し、さらに、その相互作用を応用した新たな食後高血糖の制御方法を開発することである。本年度は二重染色の確立や培養細胞による SI活性の測定法を確立し、さらに得られた研究結果から、生体内でもPAがSIと結合し、その活性に影響を与える可能性を示す事ができた。以上の理由から、研究は予定通りに順調に進展していると考える。
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今後の研究の推進方策 |
今後はPAがSIの活性に与える効果を詳細に検討するとともに、その効果に対して多糖類が与える影響について検討を行っていく。ブタ小腸を用いた既存の報告では、PAは試験管内においてSIのマンノース型糖鎖を介して結合し、その結合は糖鎖と類似構造を有するマンナンにより競合阻害されることが示されている。そこで今後は生体内において、マンナンを含む食品由来の多糖類(食物繊維)の摂取がPAとSIの結合に影響を与えるか、またその効果にはマンノース含量の多寡が影響するかを検討していく。 具体的には、まずマウス小腸を用い、採取した粘膜上皮におけるSI活性の測定法を確立する。その上で、摂食、絶食の条件下で、その活性の差異を検討する。さらにでんぷんと様々な種類の多糖類をマウスに経口投与し、PAとSIの結合を免疫染色などにより組織学的に評価するとともに、血糖上昇の程度を比較する。また上記で確立した測定法を用い、多糖類投与の有無による小腸粘膜でのSI活性の違いについて検討を行う。 あわせて、培養細胞を用いた検討も行っていく。Caco-2細胞を用いた培養系においては、PAを添加することによりSIの活性が増強することがすでに確認済みであるため、PA によるSIの活性増強効果に多糖類の添加がどのような影響を与えるかについて検討を行う。またPAがSIの活性を制御するメカニズムをより詳細に解析するために、両者の直接結合を評価する系を確立する。蛍光標識したPAをCaco-2細胞に投与し、その細胞内局在を詳細に検討することにより、 PAの細胞への結合の有無やその結合部位を明らかとするとともに、多糖類の存在下による局在の変化などを検討していく。 以上の検討を通じて、どのような食品由来多糖類がPAとSIの相互作用に影響を与え、また食後高血糖制御に応用できるかについて、総合的に検討を行う予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
次年度使用額が生じた主な理由としては以下の通りである。①本年度は評価系の確立に時間を割き、少数例をもちいた予備実験を数多く行ったため、学会等における成果発表を行うに至らず、予定していた旅費を使用することがなかった。②予備実験的な実験を行うことが多かったため、実験における検体数が比較的少なく、消耗品費などが予想よりも少なくなった。特に動物実験においては、使用した動物の頭数が実際の想定よりも少なくなり、その結果、飼養等にかかる費用を含む動物実験経費が予定よりも少額ですんだ。
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次年度使用額の使用計画 |
これらの次年度使用額については主に、29年度における学会での成果発表のための旅費や、動物実験における飼養関連費用および消耗品購入費用にあてて使用する予定である。
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備考 |
28年度より新規に立ち上げた研究のため、本研究についての研究成果は28年度は未発表である。今後は現在得ている研究結果をまとめ、29年度中に学会等で発表の予定である。
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