研究課題/領域番号 |
16K14925
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
松村 成暢 京都大学, 農学研究科, 助教 (70467413)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 糖尿病 / 高脂肪食 / 転写因子 |
研究実績の概要 |
動物の体内では外的、内的ストレスに適応するために遺伝子の調節が積極的に行われている。この遺伝子発現調節に重要な役割を果たしているのが転写因子の一つであるCREBおよびそのco-activatorであるCRTCである。このためCREB活性の低下は多種多様な環境に適応するための遺伝子発現の低下を招き、様々な疾病の引き金となる。 CRTC1 欠損マウスに高脂肪食を与えると4週目以降に血糖値の上昇が観察された。血中インシュリン値は高脂肪食開始2週間後には顕著な上昇がみられた。これは高脂肪食がCRTC1欠損マウスに対してごく短期間でインシュリン抵抗性を惹起し、さらに膵臓のインシュリン分泌不全を引き起こしたためだと考えられる。 次にインシュリン負荷試験を行ったところ、高脂肪食摂取開始一週間後には重度のインシュリン抵抗性が見られることが明らかとなった。 CRTC1欠損マウスの臓器重量を計測したところ、肝臓の顕著な肥大がみられた。さらに組織学的解析により、肝臓の脂肪含量が増大していることが明らかとなった。そこで肝臓の糖代謝に関連する遺伝子を検討したが予想に反して全く野生型と変化がみられず、且つ、脂肪合成に関する酵素の発現も変化がみられなかった。この結果はCRTC1欠損マウスに見られる脂肪肝は肝臓の遺伝子発現変化によるものではなく、肝臓以外の臓器不全による受動的なものであると推察される。 また、興味深いことに副精巣周囲脂肪の萎縮が観察された。このとき、皮下脂肪の一つである鼠蹊部脂肪、内臓脂肪である腎臓周囲脂肪、腸間膜脂肪は野生型と比較して同程度もしくはわずかな肥大がみられたのみであった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
CRTC1欠損マウスの病態はおおまかに把握することができた。CRTC1欠損マウスの糖尿病は肝臓および脂肪組織の異変によるものだと推察される。しかしながら、CRTC1の標的遺伝子を特定するにはいたらなかった。CRTC1は遺伝子転写因子であるため肝臓、脂肪組織のどちらかもしくは双方で特定の遺伝子の発現を調節しているものと考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
肝臓、脂肪組織で顕著な病態が観察されたため、これらの臓器の遺伝子解析を行う。特にCRTC1の標的遺伝子になりうるものについて詳細な解析を行う。 CRTC1の発現が肝臓、脂肪組織にみられるかを確認する。また高脂肪食摂取により誘導されるのかを検討する。いずれかにみられた場合、臓器移植による治療を行う。糖尿病を発症したCRTC1欠損マウスに野生型のマウスから採取した臓器を移植し糖尿病治療が可能であるかの評価を行う。 病原性、自己増殖生を持たない組み換えアデノウイルスに活性型CRTC1遺伝子を挿入したものを作製する。これをCRTC1欠損マウスの特定の臓器に感染させることにより失われたCRTC1の機能を取り戻させ、これにより糖尿病治療を行うことができるかを検証する。 新たに同定したCRTC1標的遺伝子についても同様の検討をおこなう。すなわち新たに同定したCRTC1標的遺伝子Xをアデノウイルスに組み込みCRTC1欠損マウスに投与して糖尿病が治療できるのかを検討する。
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次年度使用額が生じた理由 |
同一の研究テーマで獲得した他機関の助成金で実験にかかる費用をまかなったため。
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次年度使用額の使用計画 |
マイクロアレイやRNA-seqなどの高額な遺伝子解析を外注にて行う予定である。また、新規マウスの作製及び繁殖の経費として使用する。
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