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2016 年度 実施状況報告書

ブナ実生個体群を用いたストレス実験による乾燥適応性遺伝子の機能評価

研究課題

研究課題/領域番号 16K14935
研究機関弘前大学

研究代表者

赤田 辰治  弘前大学, 農学生命科学部, 准教授 (10250630)

研究分担者 鳥丸 猛  三重大学, 生物資源学研究科, 准教授 (10546427)
大宮 泰徳  国立研究開発法人森林総合研究所, その他部局等, 主任研究員 等 (70360469)
研究期間 (年度) 2016-04-01 – 2018-03-31
キーワードブナの乾燥適応 / 乾燥応答性転写因子 / ブナの集団遺伝学 / タンニン合成 / R2R3-MYB
研究実績の概要

近年の温暖化にともなう乾燥化は、多雪地帯に適応したブナの生育に重大な影響を与えることが懸念されている。ブナのFcMYB1603は強い乾燥応答性を示し、乾燥適応に関与することが示唆される。そこで日本各地におけるFcMYB1603の塩基配列の変異を調査した。白神山地のブナ集団に加え、比較的に強乾燥下の太平洋側ブナ林である段戸山(愛知)、日本海側ブナ林として大山(鳥取)と白山(岐阜・石川・福井)の集団を対象に塩基配列の多型調査と中立性解析を行い、各集団が自然選択を受けているかどうかを解析した。その結果、基本的に日本海側の集団と太平洋側の集団で異なる自然選択を受けている可能性が示唆された。
FcMYB1603導入シロイヌナズナ(S400-2)を用いて、乾燥処理による遺伝子発現変動の網羅的なマイクロアレイ解析を行った。その結果、S400-2ではコントロールに比べて5倍以上のシグナル上昇を示したものが242、1/5以下に低下したものが868を数えた。発現の低下した遺伝子の中には生体防御に関わる遺伝子やリグニン合成に関わる遺伝子などが含まれていた。
ブナにおいては前年の食害が翌年の若葉におけるPA合成に影響を及ぼすことが報告されており、関連遺伝子のエピジェネティックな調節の関与が考えられる。そこで植物の主要な防御物質として知られている縮合タンニン(PA)合成経路に働く傷害誘導性遺伝子の探索と、翌年のPA合成に影響を与えるメカニズムの解析を行った。PA合成の調節遺伝子としてシロイヌナズナのTT2、ポプラのMYB134に対するブナホモログを探索した結果、ブナの傷害誘導性遺伝子としてFcMYB3202が同定された。また、そのプロモーター領域のメチル化解析を行ったところ、障害記憶としての脱メチル化現象が明らかとなった。

現在までの達成度 (区分)
現在までの達成度 (区分)

2: おおむね順調に進展している

理由

本研究課題ではブナの乾燥適応性に関わる遺伝子の多様性と地理的変異を調べることによって、日本の自然林における主要樹種であるブナが環境の変動に対してどの程度の適応可能性を持っているかを評価することを目的としている。これまでの研究で、最も注目してきた遺伝子FcMYB1603の地理的変異と遺伝子機能の解析については大変順調に進展していると考えられる。また、マイクロアレイ解析によって、FcMYB1603の機能に関する有用な結果を得ることが出来た。さらに、関連する研究においてブナの傷害誘導性遺伝子としてのFcMYB3202が同定された。そして、そのプロモーター領域のメチル化解析を行ったところ、障害記憶としての脱メチル化現象が明らかとなった。
一方、この遺伝子の機能解析にはブナ実生を用いたストレス実験が主要なテーマになっているものの、昨年秋にはブナの大凶作に見舞われたため、結実種子を得ることが全く出来ないと言う事態に見舞われた。従って、実生を用いた実験の立ち遅れは否めないが、環境適応性遺伝子の多様性解析と機能解析という全体テーマとしてはおおむね順調と判断される。

今後の研究の推進方策

植物の乾燥適応機構についてはモデル植物での研究が先行しているが、ブナなどの樹木では後追いながらモデル研究の知見やデータを利用できるという強みがある。また、日本各地に自生するブナ集団は、それぞれが地域特有の気候や立地条件に適応して繁茂してきたものであり、その遺伝的多様性の中に固有の環境適応機構を読み解くカギがあると考えられる。
そこで、28年度に引き続き日本各地のブナ集団の DNA サンプルを用いて乾燥応答性FcMYB1603のの多型性の地理的・環境状態ごとの変異性を把握する。また、これらの解析によって、日本各地域や立地条件によって特徴的な頻度分布を示す遺伝子の解析を進める。さらに、非同義置換の集中する領域で中立性解析を行い、各集団が自然選択を受けているかどうかを推測する。一方、マイクロアレイ解析によって推測された他の関連遺伝子群については、個体レベルでの乾燥適応における生理的役割を解析し、モデル植物における先行研究と比較することによって、樹木における生理的側面を明らかにする。
一方、ブナ実生を用いた個体レベルでの生理的多様性解析については、ブナの凶作により本格的な実験が立ち遅れているが、今年度は中程度の豊作が見込まれるので一年遅れながら計画に従って進めることが出来ると考えられる。

次年度使用額が生じた理由

ブナ実生個体群を用いたストレス実験については、昨年のブナの大凶作の為に十分な個体数を得ることが出来なかった為、一部の実験計画を見送る事態となった。従って、この部分については次年度使用額として保留することにした。
ただし、全国的なブナ集団の遺伝子多様性解析やマイクロアレイ解析などの実験を進めることができた。さらに、環境適応性の一環として、ブナの食害に対する応答性関連遺伝子の同定やそのプロモーター領域のメチル化解析を行うことが出来たことは今後の計画に大変有用であった。

次年度使用額の使用計画

上記のように昨年度のブナの凶作を受けて、保留した使用額については今年度に結実が予想されるブナ種子の採取と栽培により、実生個体群を作成するために使用する予定である。

  • 研究成果

    (4件)

すべて 2017 2016

すべて 学会発表 (4件)

  • [学会発表] ブナ乾燥応答性遺伝子FcMYB1603の塩基多型の地理的変異.2017

    • 著者名/発表者名
      鳥丸猛・塚本将司・赤田辰治
    • 学会等名
      第128回日本森林学会大会
    • 発表場所
      鹿児島大学農学部
    • 年月日
      2017-03-27
  • [学会発表] ブナのタンニン合成経路に働く傷害誘導性遺伝子の解析.2017

    • 著者名/発表者名
      福井忠樹・赤田辰治・鳥丸猛
    • 学会等名
      第128回日本森林学会大会
    • 発表場所
      鹿児島大学農学部
    • 年月日
      2017-03-27
  • [学会発表] ブナ乾燥応答性遺伝子FcMYB1603の機能的解析.2017

    • 著者名/発表者名
      赤田辰治・國嶋俊輔・鳥丸猛
    • 学会等名
      第128回日本森林学会大会
    • 発表場所
      鹿児島大学農学部
    • 年月日
      2017-03-27
  • [学会発表] ヤマモミジの紅葉におけるアントシアニン合成系路の遺伝子発現解析ならびに紅葉樹種と環境要因の相関.2016

    • 著者名/発表者名
      徳中琢・赤田辰治・鳥丸猛
    • 学会等名
      東北植物学会第5回宮城大会
    • 発表場所
      東北大学青葉山北キャンパス
    • 年月日
      2016-12-10

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公開日: 2018-01-16  

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