研究課題/領域番号 |
16K14944
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研究機関 | 神戸大学 |
研究代表者 |
石井 弘明 神戸大学, 農学研究科, 准教授 (50346251)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 樹木生理学 / 可塑性 / 順化 |
研究実績の概要 |
樹木は作物よりも世代交代が遅く、植栽から収穫までの年数が長いため、林木の育種は作物と比べて進展が遅れている。日本では長年にわたってスギやヒノキなどの主要な造林木を対象に、成長が速く、材質の優れた系統の開発および、優れた形質をもつ「精鋭樹」を挿木によって増殖する事業が進められてきた。しかし、特定の形質を有する系統を選抜育種する従来の方法では、時間がかかりすぎるだけでなく、生理的な形質が固定されてしまうため、年々進む地球温暖化などの環境変動に対応できないと考えられる。そこで、本研究では、将来の環境変動に対応可能な高い表現形可塑性を有する系統を探索し、それらを稚樹段階で選抜するために必要な形態・生理特性を明らかにすることを目的としている。 今年度は、鹿児島大学高隈演習林のスギクローン検定林において調査、試料採取を行った。樹冠最上部および最下部から当年性シュートを採取し、形態・生理特性の測定を行った結果、クローンごとに可塑性が異なることが明らかになった。しかし、昨年と同様に形態・生理的可塑性の高さと成長量には一定の関係がみられなかった。この結果は、各クローンにおいて、成長量を維持するための形態・生理的順化反応が異なることを示唆している。 生理的順化能力と形態的順化能力はそれぞれ、化学的な資源配分と構造的な物質配分に対応しており、クローンによって順化戦略が異なる可能性が考えられる。 次年度は、生理的順化と形態的順化を対比する実験を行い、クローンごとに異なる戦略をより詳細に調査する。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
29年度は九州大学宮崎演習林に続いて、鹿児島大学高隈演習林の精鋭樹検定林で調査を行い、前年と同様の結果を得ることができた。当初仮説と異なるものの、クローンごとに順化反応が異なるという結果は、スギの環境変動に対する順化反応が一律でないことを示している。この結果は重要な成果であり、今後の気候変動に対する順化能力の高い品種を選抜するにあって重要な知見となるだろう。今年度はこの仮説をより詳しく検証していく。
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今後の研究の推進方策 |
2年間の実験結果から、スギ精鋭樹では、クローンによって形態・生理的順化の戦略が異なる可能性が示唆された。そこで、今年度はこの違いに注目して実験を行うとともに、成果を新しい仮説として公表することで、学会等で他の研究者からのフィードバックを得る。具体的な実験としては、九州大学宮崎演習林および鹿児島大学高隈演習林の精鋭樹検定林において、斜面の異なる位置に植栽された同じクローンのデータを比較することで、立地条件=栄養条件が順化能力に与える影響を評価する。仮説として、窒素などの栄養分が制限される斜面上部では、化学的可塑性が低下すると考えられる(Ishii et al. 2007)。また、生理的順化能力が高いクローンの成長量は栄養制限の影響をより強く受けると考えられる。よって、これらを比較することで、仮説を検証することができる。
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