研究課題/領域番号 |
16K14945
|
研究機関 | 宮崎大学 |
研究代表者 |
伊藤 哲 宮崎大学, 農学部, 教授 (00231150)
|
研究分担者 |
雉子谷 佳男 宮崎大学, 農学部, 教授 (10295199)
平田 令子 宮崎大学, 農学部, 講師 (50755890)
|
研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
|
キーワード | 低コスト再造林 / さし木苗 / 根系 |
研究実績の概要 |
(1)効率的なカルス苗育成方法の開発: スギ挿し木品種タノアカおよびマアカを用いて水耕栽培によるカルス形成、発根誘導試験を行った。その結果、①水耕栽培では、水温や曝気による溶存酸素の制御よりも地上部(水面上)の環境が挿し穂の生残に大きく影響することを明らかにした。②根は必ずしもカルスから発生せず、水面上のカルス以外の部位からの発根がしばしば認められること、および根がカルスを経由せず、木部細胞内に放射状に維持されてきた分裂組織が根の原基となることを明らかにした。③水耕栽培で発生した根は通常の挿し木苗の根に比べて直径が著しく太く細根が少ない。④低温処理(ハードニング)によってマアカのカルス形成は促進できるが発根促進は困難であり、採穂時のホルモンバランスによる制限が強いと考えられる。⑤カルス形成前、形成後、および発根後の資料の内生ホルモン量を分析した結果、カルスでは他の試料でほとんど検出できない活性型のサイトカイニン及びジベレリンが大量に生成されており、これらが最終的な発根を誘導している可能性が示唆された。 (2)適切なカルス形成状態とその判定手法の開発、および(3)植栽適用可能条件の解明: 発根量の異なる挿し木苗をポットおよび路地に夏季植栽し、摘葉により葉量を調節して潅水、無潅水および自然降雨条件下で生育させ、樹勢および機構コンダクタンスの計測を行った。その結果、一定量の根系がある場合は摘葉による蒸散・給水機関バランスの調節が夏季植栽時の活着に有効であるが、根量の少ないカルス苗では夏季植栽の活着率が低いことが示された。さらに、カルス形成後の発根および根系の正常発達を促進する手段として、マルチキャビティコンテナよりも通気性や運搬性に優れたペーパーポットを利用した育苗技術の開発にも着手し、水耕栽培苗やコンテナ苗よりもより自然状態の普通苗根系に近い根系が得られること可能性を見出した。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
(1)効率的なカルス苗育成方法の開発: 水耕栽培苗の外部形態と解剖学的観察により、カルス形成と発根が基本的には別の過程である可能性が高いことが示された。とくに根の原基がカルスでないことを確認したことは極めて重要であり、カルスにおける活性型植物ホルモン生成の発見と併せて、挿し木研究を行う上で基礎科学的に貴重な知見が得られたといえる。これにより、今後はカルス形成促進と植え付け後の発根促進とを明確に区分して研究を実施すべきであることがわかった。 (2)適切なカルス形成状態とその判定手法の開発、および (3)植栽適用可能条件の解明: 根系発達段階を区分した苗の植栽・潅水試験によって、ストレス回避と活着に必要な根系量およびその着葉量とのバランスを明らかにできた。現時点での知見は夏季植栽時に限定されるものであるが、当初想定していた春季植栽時の分析にも適用できる実験・解析プロトコルを確立できた。さらに、(1)で育苗手法ごとの根系形態の違いが得られたことから、次年度以降はカルス形成後の健全な根系発達を促進させる育成環境が必要性であることが明らかとなり、その一つの方策としてペーパーポットの利用可能性が示された。 以上の成果により、本課題は概ね順調に進呈している。
|
今後の研究の推進方策 |
(1)効率的なカルス苗育成方法の開発: 水耕栽培時の物理環境(流水・水温・気温・光質等)を変えてカルス形成実験を継続し、効率的なカルス形成環境を特定する。また、実験材料の一部を定期的に採取し、カルスおよび根系発達の段階に対応した内生ホルモン量を定量することにより、カルス形成および発根のそれぞれに関与する内生ホルモンとその相互作用を特定する。 (2)前年度と同様のカルス苗植栽試験を一般的な植栽時期である春季に実施し、生理ストレスおよび活着状況をモニタリングする。また、ペーパーポットとココピート培地を組み合わせた発根・育苗システムの実験を行い、発生する根系の形態と植栽後の整理ストレスおよび活着との関係をコンテナ苗や普通苗と比較することにより、適正な発根環境を解明する。 (3)植栽適用可能条件の解明:前年度と当該年度の実験データを使用して、適用可能な降雨条件を予測するモデルの構築を開始する。
|
次年度使用額が生じた理由 |
当初、挿し穂の低温処理(ハードニング)によるカルス形成促進実験の周年実施を予定していたが、春夏の実験の結果、処理の効果が小さいことが明らかとなった。また秋の学会(九州森林学会)において類似研究の成果が発表され、スギ挿し穂からのカルス形成および発根が採穂時のホルモンバランスによって不可逆的に規定されている可能性が極めて高いことが報告された。これらを受け、植物ホルモン投与を含めた当該年度の秋以降のハードニング処理実験を中止した。また、挿し穂からの根系発達状況の観察の結果、カルス形成と発根が全く別の植物ホルモン作用によるプロセスである可能性が示唆されるとともに、根系形態が育苗方法により大きく異なることが明らかとなり、カルス形成と発根を別プロセスとして促進すること、および水耕栽培以外の方法も含めて正常な根系発達を促す育苗方法を検討する必要が生じた。
|
次年度使用額の使用計画 |
当初計画に加えて、カルス形成時および発根時のホルモン定量のための材料を育成する新たな水耕栽培実験を実施するとともに、ペーパーポットとココピート培地を組み合わせた潅水制御による育苗試験を組み、育苗環境が根系の質および植栽後の活着率に与える影響を解明する。
|