研究課題/領域番号 |
16K14946
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研究機関 | 琉球大学 |
研究代表者 |
渡辺 信 琉球大学, 熱帯生物圏研究センター, 准教授 (10396608)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 大型台風 / マングローブ |
研究実績の概要 |
日本のマングローブ林の総面積は僅か744haで、その7割が沖縄県八重山諸島の西表島に分布している。これらは世界のマングローブ分布の北限としても貴重な存在であることから、大部分は自然保護区に指定されている。その一方で近年大型化が著しい台風の直撃により、マングローブ林が大面積で倒壊する被害が頻発している。本研究は、大型台風が西表島のマングローブ林とその生態系へ及ぼす影響を明らかにすることを目的とし、この貴重なマングローブ生態系の保全に不可欠な施策決定に資する重要な科学的知見を提供する。 本研究の目的を達成するために以下に示す3つの目標を設定した。(1)近年の大型台風による西表島のマングローブ林倒壊の現況を明らかにする。(2)倒壊被害地の微地形及び実生を含む現存個体情報を収集・解析し、長期的には台風被害がマングローブ林存続のためにプラス、マイナスどちらの効果として作用するのかを検証する。(3)マングローブ林内の地上生物情報を映像と音響スペクトルで収集・解析し、台風がマングローブ林の生物多様性にどのような影響を及ぼすのかを明らかにする。 平成29年度は仲間川、仲良川、船浦湾でドローンによる空撮調査を実施し、仲間川では実生の生育状況と地盤高の状態を直接確認するための実地踏査も実施した。その結果、倒壊地の地盤高はマングローブが現存する場所の地盤高よりも低くなっていることが明らかになった。また倒壊地には新規実生の定着が殆ど存在せず、地盤は非常に軟弱で実生の定着が困難なことが推測された。これらの調査で一つ目の目標を達成し、二つ目の目標を満たすための基本情報を収集することが出来た。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
西表島には503 haのマングローブ林が存在する。本研究では仲間川(132 ha)、仲良川(80 ha)、浦内川(51 ha)、船浦湾(44 ha)、前良及び後良川(26 ha)流域の台風で倒壊した林分とその周辺部の調査を予定しているが、平成29年度は仲間川、仲良川、船浦湾で調査を実施した。調査の詳細を以下に示す。 【地形及び植生の画像データ収集】調査対象に設定したマングローブ林全域の地形及び植生の概要を把握するため、ドローンによる空撮を行った。ドローンで調査地上空150mを時速36kmで飛行、2秒間隔で自動撮影を行い、1000枚以上のRAW画像データを取得した(倒壊地の詳細な微地形画像データ)。次にドローンでマングローブ林倒壊地の上空50mを時速10kmで飛行、ビデオ撮影を実施した(倒壊地の植生画像データ)。 【画像処理】三次元形状を仮想空間に復元するStructure from Motion (SfM)アルゴリズムを用いて、収集したLAW画像データ1枚毎に4万点のポイントクラウド(点群データ)抽出を行い、全ての画像をアッセンブルし、2.5次元モデルとオルソ画像を生成した。 【地上基準点(GCP)の設定】生成した三次元モデルに地理空間座標を定義するため、仲良川と船浦湾の調査地に地上基準点を設定し、全地球航法衛星システム計測(GNSS)を実施した。生成した2.5次元モデルに測定した空間座標を与えた。 【地盤高測量】マングローブ林倒壊地と非倒壊地の間の地盤高差を明らかにするために、縦断測量を実施した。 以上の調査から、調査地全体の微地形と植生分布の概要を把握した結果、倒壊地の地盤高がマングローブが現存する場所の地盤高よりも低くなっていることが明らかになった。また倒壊地には新規実生の定着が殆ど存在せず、地盤は非常に軟弱で実生の定着が困難なことが推測された。
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今後の研究の推進方策 |
平成29年度は前年度と同様の調査と共に、詳しい植生調査と生物多様性調査も実施する。調査項目の調査は以下の通り。 【植生調査】倒壊地におけるマングローブ林再生の可能性を見極めるために、マングローブ林倒壊地と非倒壊地の全マングローブ樹種の実生分布状況を調査する。また胎生種子を供給可能な母樹の現存調査を実施する。調査結果はGISに格納した微地形データ上にマッピングする。この調査を3年間継続し、倒壊地におけるマングローブ林再生の可能性を検証する。また地盤高が高い地点のオヒルギの生育状況を調べ、大規模倒壊現象の起因となる可能性を検証する。 【生物多様性調査】本調査では全自動赤外線撮影カメラ(ビデオ同時撮影機能付)による視覚情報収集とマイクロフォンによる音を発する昆虫、鳥類、ほ乳類等の生物音響情報収集を行う。マングローブ林の倒壊地と非倒壊地にそれぞれ100m四方の生物多様性調査プロットを設置する。プロット内に録音機能付無指向性マイクを50m間隔で碁盤目状に計9台設置すると同時に、調査地外周に50m間隔で計8台の全自動赤外線撮影カメラを内向きに設置する。3日間~1週間の自動撮影と自動録音を実施し、得られた映像と音響データからそれぞれの場所の生物多様性プロファイルを作製する。動画と静止画像データは目視で出現個体と出現頻度を集計する。音響データは解析ソフトで2次元スペクトルに置き換え、異なる波長毎に生物を特定し、音紋をデータベース化する。更にマイクの位置関係と信号値の大小から可能な限り音源となる生物の位置推定解析を試み、三次元地形モデルへプロットする。
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