日本のマングローブ林の総面積は僅か744haで7割弱が沖縄県八重山諸島の西表島に分布しているが、これらは世界のマングローブ分布の北限で当たることから生物学的に貴重な存在である。本研究は大型台風が西表島のマングローブ林とその生態系へ及ぼす影響を明らかにすることを目的とし、この貴重なマングローブ生態系の保全に不可欠な施策決定に資する重要な科学的知見を提供する。 最終年度も今迄同様にドローン空撮によるマングローブ倒壊地のモニタリングと実地踏査を行った。マングローブ林の倒壊はオヒルギの純林だけで発生しており、複数箇所で倒壊被害が認められた。また過去のモニタリングデータの比較で倒壊被害面積は今まで同様徐々に拡大しており、一番大きな倒壊地の面積は3ヘクタールに及ぶことが明らかとなった。倒壊裸地の拡大に伴う地盤高の低下も継続しており、大量の土壌が仲間川河口域へ流出、河口域の汽水をニッチとする諸生物、そして沿岸域の珊瑚礁への悪影響が懸念される。これらに加え調査地の生物情報を音響データで収集する調査も実施したところ、倒壊裸地はマングローブ林内よりも音響スペクトルが乏しい結果となり、音を発生する生物の多様性が低下していることがわかった。 調査地のマングローブ林の変遷を調べるために太平洋戦争直後からの航空写真、衛星写真を調査したところ、太平洋戦争直後に当該地域のマングローブが半分以上択抜されていることが明らかとなった。このことに起因して仲間川のオヒルギ林の林齢が揃い、大部分の樹木は70年程度であることが推測された。実際に共同研究者の宮城が文化庁の許可を得た上で5本のオヒルギ倒木の年輪を確認したところ69年と70年であった。これらの事実から本研究調査地の大面積倒壊現象は、過去の人為的活動と近年の大型台風により発生した複合被害であると結論した。
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