近年、ヒトの体内や海洋中など、様々な場所でウイルス相の研究が進められているが、森林や草地で植物ウイルスについて網羅的に明らかにした研究はほぼない。植物にとってウイルスは生理的な変化をもたらし、成長阻害や枯死の要因となる。 農地に侵入する病害性のある植物ウイルスの出どころとしては、森林や草地だと考えられるが、森林や草地の植物ウイルス情報は非常に少ない。そこで森林や草地などの自然生態系にどのような植物ウイルスが存在するかを調べるために、東京大学田無演習林で採取した野外植物の葉からウイルスRNA抽出実験をDECS法を用いて行った。ウイルスRNAが単離できたかどうかは網羅的逆転写反応後にシーケンスし、BLAST検索を行う方法と、特定のウイルスの有無を調べるRT-PCRを用いた。いずれの方法でもウイルスを検出することはできなかった。その理由としては、そもそもウイルスが感染していない葉を用いてしまった可能性、ウイルス抽出に失敗した可能性、サンプル採取時期の問題が考えられた。抽出した野外植物のうち、ヤマノイモに関しては病徴が出ていたため、ウイルスに感染していない葉のみであるとは考えにくい。本研究で対象にしたdsRNAはRNAウイルスが複製される際に作られるものであり、感染していることがはっきりとわかる反面、複製時期を逃すと捉えにくいものである可能性があり、採取時期によっては抽出しにくいものである可能性が高い。今後は採取時期の違いによる鋭敏さを考慮していく必要があるかもしれない。
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