研究課題
Inoue and Nishizono(2015,Eur J For Res)によって提案された「樹幹表面積の保存則」について,さらに詳細な検討を行った。まず,針葉樹天然林において収集された樹幹解析データを用いて,樹幹表面積を推定するための回帰モデルについて検討した。その結果,樹高と胸高直径の積を変数とするモデル(Inoue, J For Res, 2004)では,針葉樹天然林内での樹種間での回帰係数の変異は認められないことがわかった。また,天然林と人工林(Inoue, J For Res, 2004)との間でも,回帰係数の傾きに相違は認められないことも明らかになった。以上のことより,樹高と胸高直径の積を変数とする樹幹表面積の推定モデルについては,地域,樹種,樹幹サイズなどによらず普遍的である可能性が示唆された。次いで,上述の針葉樹天然林における樹幹表面積の回帰モデルを用いて,老齢針葉樹天然林における長期森林モニタリングデータをもとに,樹幹表面積の動態を解析した。使用したデータは,全部で4林分,10年間隔で3回(20年間)の計測値が含まれていた。解析の結果,単位土地面積あたり樹幹表面積合計の値については,林分間で異なるものの,20年間での大きな変化は認められなかった。このことは,対象とした老齢針葉樹天然林の場合,林木の成長による増加と枯死による減少の均衡した表面積の動的平衡状態にあることを示唆すると考えられた。以上により,針葉樹人工林で認められる「樹幹表面積の保存則」は,針葉樹天然林においても成り立つものと結論づけた。
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