研究課題/領域番号 |
16K14952
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研究機関 | 東京農工大学 |
研究代表者 |
吉田 誠 東京農工大学, (連合)農学研究科(研究院), 准教授 (30447510)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 木材腐朽 / 植物細胞壁分解 / 褐色腐朽 |
研究実績の概要 |
褐色腐朽菌は木材中のリグニンを完全分解することなくセルロースを完全分解できる類稀なる能力を有する。したがって、この分解機構を人為的に制御できれば、脱リグニンが不要な新規コンセプトに基づく次世代植物バイオマス糖化技術が開発可能である。 代表者は、褐色腐朽菌の木材分解主要経路である錯体介在フェントン(CMF)反応に関与する金属イオン結合性ペプチド群に着目した。CMF反応に関与する化合物の中で遺伝子の直接制御下にあるものはペプチドのみであることから、これらが代謝工学的に褐色腐朽菌を分子育種するためのキー因子となり得る。本課題では、褐色腐朽菌が分泌する金属イオン結合性ペプチドを網羅的に解析し、その中から木材分解の制御を可能にするキー因子(ペプチド)を特定することを目指す。 本年度は褐色腐朽菌Gloeophyllum trabeumを対象として、培地中に生産されるCMF反応に関与する因子を調査した。その結果、本菌は白色腐朽菌と比較して、高いシュウ酸生産能と高い鉄還元能を有していることを明らかとし、さらにそれらに関連する遺伝子群のうち木材分解時に発現が促進するものを特定した。さらに、褐色腐朽菌G. trabeumを対象として、ゲノム、トランスクリプトームおよびIMACシステムを利用したペプチドーム解析の観点からペプチドおよび低分子タンパク質を探索した。その結果、低分子タンパク質もしくはペプチドをコードする遺伝子を特定することに成功した。標的遺伝子がコードする産物の機能を解析するため、酵母菌Pichia pastorisを宿主とした組換え体の発現を試みた結果、可溶性タンパク質として生産することができた。得られた組換え体を対象として、IMACを用いた鉄結合性の調査およびフェロジン法による鉄還元能を調査したが、いずれの特性も検出できなかったことから、鉄以外の金属元素との関連性を精査している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
「研究実績の概要」欄で述べた通り、本年度は様々なポストゲノム解析を通じて、CMF反応のキー因子となり得るペプチドもしくは低分子タンパク質をコードする遺伝子の探索を試み、複数の標的遺伝子を特定することに成功した。これらの遺伝子には、木材分解時のみで高い遺伝子発現を示すものが存在しており、これらが褐色腐朽菌の木材分解において重要な役割を果たしていると考えられた。また、これらの遺伝子の中にはすでに白色腐朽菌で特定されているグリコペプチドとは分子系統樹上で大きく異なるクレードに位置するものも見出され、さらにこれらの遺伝子が褐色腐朽菌において多様性を拡大していたことから、褐色腐朽菌の木材分解機構において重要であると考えられた。さらに、標的遺伝子を酵母菌Pichia pastorisを宿主とした異種宿主発現させ、それがコードする産物を組換え体として生産することにも成功した。これまでの解析で、鉄の還元能や鉄結合性は検出されていないものの、遺伝子発現挙動や三次元構造モデルの特性から、金属との関連性が大いに予想されることから、鉄以外の金属元素との関連性があると考えている。また、本年度に実施された褐色腐朽菌Gloeophyllum trabeumの培養液を用いた鉄還元能の調査において、極めて高い鉄還元能が観察されたことから、従来予想されているように、褐色腐朽菌の木材分解機構には鉄の還元性が重要であることが示唆された。以上の結果については、学会発表などを通じて公に公開している。
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今後の研究の推進方策 |
「研究実績の概要」欄で述べた通り、現時点では研究はおおむね順調に進展している。すなわち、これまでに褐色腐朽菌Gloeophyllum trabeumを対象として、多くの低分子タンパク質およびペプチドを特定してきており、さらにそれを組換え体として発現することにも成功している。したがって、今後も予定通り解析を中心に実施する予定である。具体的には、組換え体を用いた機能解析を継続して実施する予定である。また、各種解析により機能が明確にならない低分子タンパク質およびペプチドについては遺伝子抑制株を作出し、それにより生理的な役割についての情報を得たいと考えている。その一方で、これまでの解析により、褐色腐朽菌にはこれまでに機能が知られていない多くの低分子タンパク質およびペプチドが存在しており、これらは菌体外に生産されることが見出され、また、それらのうち木材分解時に生産が促進されているものが多く特定されている。そこで、次年度は、それらの低分子タンパク質およびペプチドと強調して機能する遺伝子群を見出すため、褐色腐朽菌の菌体外タンパク質の網羅的な解析、すなわちセクレトーム解析を実施する予定である。 得られた結果については、学会発表のみならず学術雑誌にもその成果を公表する予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
当該年度にペプチドおよび低分子タンパク質のスクリーニングについて実験補助を雇用する予定であったが、予定していたよりも少ないスクリーニングでペプチドおよび低分子タンパク質が見出されたため、その分の雇用費が使用されなかったため残額が生じた。しかし、使用計画で後述する通り、褐色腐朽菌が生産するペプチドおよび低分子タンパク質が予想していたよりも多いことが明らかとなったことから、この残額は機能解析に必要な物品費として用いる。
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次年度使用額の使用計画 |
これまでの研究において、褐色腐朽菌が生産するペプチドおよび低分子タンパク質が予想していたよりも多いことが明らかとなり、したがって、次年度の機能解析に予定以上のコストがかかることが明らかである。したがって、予定額に次年度使用額を加えて物品費として執行する計画である。
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