研究課題/領域番号 |
16K14953
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研究機関 | 東京農工大学 |
研究代表者 |
岡山 隆之 東京農工大学, (連合)農学研究科(研究院), 教授 (70134799)
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研究分担者 |
小瀬 亮太 東京農工大学, (連合)農学研究科(研究院), 助教 (60724143)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 古紙 / セルロースナノファイバー / リサイクル / 紙 / 塗工 / 引張強さ / 引裂強さ |
研究実績の概要 |
古紙回収率が急速に増加してリサイクルパルプ繊維自身の劣化が進行することによって、製紙原料への低質古紙の混入が増加する傾向にあり、古紙配合紙の品質低下が進んでいる。本研究では、セルロースナノファイバーよりも紙の強度向上に寄与すると推定される数十~数百マイクロメートルレベルの繊維長を有する微細セルロースファイバーを、抄紙工程の湿紙ウェブ上または紙表面に塗工することよって、古紙パルプ繊維表面上に存在するセルロース分子との間に水素結合による繊維間相互作用を生じさせ、低質古紙配合紙の強度向上処理法を開発することを目的としている。 本年度は、a.材料:製紙・加工工程における低質古紙配合紙の強度向上処理に適した微細セルロースファイバーの探索、b.手法:微細セルロースファイバーを湿紙ウェブまたは紙表面に効果的に塗布する(付着させる)手法の開発、c.評価:微細セルロースファイバー・コーティングによる低質古紙配合紙の強度向上効果の検証を中心に検討した。 市販コピー用紙に乾湿繰返しのリサイクル処理を1回または5回施して手すき紙を調製し、2種類のワイヤーバーを用いて塗工速度30mm/sまたは50mm/s の条件で手すき紙表面上に微細セルロースファイバーを塗工した結果, 太いワイヤーバーを用いた場合または塗工速度が遅い場合に塗工量が多くなる傾向にあった。さらに、リサイクル処理を重ねた古紙パルプ手すき紙では相対的に塗工量が増加することが判明した。リサイクル処理を行った古紙パルプ手すき紙の引張強さおよび引裂強さは、塗工前に比べて増加した。しかしながら、塗工量の差による強度変化は少なかった。また、紙の白色度、不透明度および比散乱係数がそれぞれ塗工後に増加した。以上の結果、微細セルロースファイバーを用いた古紙パルプ配合紙への塗工処理は、紙の強度向上に効果的であることが明らかになった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
古紙回収率が急速に増加してリサイクルパルプ繊維自身の劣化が進行することによって、製紙原料への低質古紙の混入が増加しており、古紙配合紙の品質低下が進んでいる。本研究では、軽量で高強度などの特徴を有する新素材であるセルロースナノファイバーを用いて紙表面塗工処理を施し、低質古紙混入による紙の強度低下を抑制する新しい紙力強化法を提示することを目的としている。 平成28年度は、市販のセルロースナノファイバーを用いて塗工条件を1年間で研究計画すべての達成を目指したが、紙表面への微細セルロースファイバーの塗工処理に際して、古紙の種類や配合量などの要因によって古紙配合紙の塗工量が変動することが確認され、さらに、低質古紙配合紙の強度向上処理に適した微細セルロースファイバーの検討にまで至らなかったため、1年間の研究期間延長を申請し、承認された。 したがって、平成28年度は、古紙配合紙の表面に微細セルロースファイバーを効果的に塗工する手法の技術的確立を優先して、材料としての入手が容易な市販のセルロースナノファイバーをを用いて塗工処理を詳細に検討し、微細セルロースファイバーを古紙配合紙表面の塗工最適条件として、塗工量2.0~4.0g/m2、回転型乾燥機を用いて100℃で30~50mm/sの塗工乾燥速度を見出した。次のステップとして、紙表面への微細セルロース塗工処理による古紙配合紙の強度向上効果の最大化が課題となってきた。 これまでの研究結果から、古紙配合紙に2.85g/m2の塗工を施すと、紙の比引張強さとして約1.17倍の向上効果を確認している。平成29年度は、独自に微細セルロースファイバーを作製して用いるとともに、塗工条件による低質古紙配合紙の強度向上効果の最大化を目指す。
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今後の研究の推進方策 |
一般に、紙の引張強さは、パルプの単繊維強度及び繊維間結合力によって影響を受ける。本研究代表者らは、乾湿繰返しによる紙のリサイクルは、単繊維強度が低下するものの、紙の引張強さの低下に比べれば、単繊維強度の指標であるゼロスパン引張強さの低下はかなり小さいことを確認している。リサイクルによる紙の引張強さの低下は、むしろ、繊維間結合力の低下によるところが大きいことを示した。 本研究では、軽量で高強度を有する微細セルロースファイバーを抄紙工程の中で塗布することによって、紙表面に高強度の微細セルロースファイバー層を形成させるとともに、湿紙ウェブ上で、原料として配合された古紙パルプ繊維のセルロース分子と微細セルロースファイバーの間に新たに繊維間水素結合を形成させることを想定している。 平成29年度は、水中カウンタ・コリジョン法を用いて異なるパルプ繊維から微細セルロースファイバーを調製し、古紙配合紙の強度向上処理に適した原料繊維およびその塗工条件を検討する。同時に、古紙配合紙に含有する古紙パルプの種類および配合率による影響を確認する。 低質古紙配合紙に対して適切な強化効果を出現させる最適塗工条件を見出すために、抄紙工程におけるプレス、サイズプレス、乾燥、カレンダ及び塗工処理工程中の各ステージを想定しながら、湿紙水分の異なる紙表面上にセルロースファイバー・コーティングを施した紙の各種強度(引張強さ、引裂強さ、ゼロスパン引張強さ、比散乱係数)の測定から、Pageの式等を用いて微細セルロースファイバーの塗工処理によるパルプ単繊維強度および繊維間結合の変化を検証する。併せて、長期にわたる劣化抑制効果の検証は、コーティング処理紙に加速劣化処理を行い、劣化前後の紙の強度測定によって比較検討を加える。
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次年度使用額が生じた理由 |
研究計画に記載した紙表面へのセルロースナノファイバーの塗工処理に際して、古紙の種類や配合量などの要因によって古紙配合紙の塗工量が変動することが判明し、塗工量をコントロールするテクニックを習得するために時間を要したことおよび購入した紙厚測定器に不具合が生じ、製造業者に修理を依頼したため、多少の時間を要したことから、補助事業期間の延長を申請した。加えて、研究代表者が所属大学の教育研究評議員を務めていたことから業務の多忙が続いたことも期間延長の要因として挙げられる。申請の結果、平成29年3月21日付で日本学術振興会より期間延長の承認が得られた。
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次年度使用額の使用計画 |
平成29年度の使用計画は、平成28年度の交付決定額に対応して、物品費等において適正に支出する予定である。
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